生活者の動画視聴はスマートフォン中心に急速に変化し、TikTokやInstagramリール、YouTubeショートなど縦型動画が新しい主流になっています。従来の横型とは異なる発想が求められる中、制作現場ではどう工夫して効果を最大化しているのでしょうか。
本記事では、映像クリエイティブ事業本部のディレクター 長塩 希代、磯崎 文香、小林 友麻が、縦型動画の魅力と可能性、SNS時代に必要な考え方、制作現場のリアルを語ります。

- “0.5秒で心をつかむ”! 動画は生活インフラへ
- 縦型動画はパーソナルスペースに届く新たなフォーマット
- 縦型動画で接点を積み重ねる。SNS時代のブランドづくり
- 縦型動画は企業と生活者をつなぐ“コミュニケーションの場”になる
- プロフィール
“0.5秒で心をつかむ”! 動画は生活インフラへ
ー生活者の動画視聴行動は、ここ数年でどう変化したと感じますか?
長塩:以前は「動画コンテンツはスナック菓子のようなもの」と言われていました。ちょっと口寂しいときにつまむように、パクパク消費されて中毒性がある、というような。しかし今はもう一段先に進んでいます。動画は空気や水のように誰もが“無意識に摂取するもの”になり、生活のインフラ化が進んでいる。特に、TikTokやInstagramのストーリーズが普及し始めた頃から、縦型動画がメインになり、以前の教科書的なお作法や起承転結という型はあまり重視されなくなりました。
磯崎:縦型動画は若年層向けで自由度も高く、まだ完成された型がない分、企画の余白が大きいんです。トレンドも「最初の5秒で引きをつくる」ことから「冒頭の0.5秒でオチをつくる」へと変化しており、従来のような丁寧な“起・承”よりも、転と結だけで勝負する構成が求められたりします。
長塩:その上で、SNS視聴のトレンドで、いちばん大事なのは“自分ゴト化”です。スマホはユーザーとの距離が物理的にも心理的にも近いメディア。だからこそ、「自分に向けて話してくれている」と思わせられるかどうか、が縦型動画の要となります。
磯崎:そして、何よりとにかく飽きさせないこと。音が一瞬鳴らない、画像が少し止まる──それだけですぐにスワイプされてしまいます。結局は、スピード感や情報量だけでなく、カットのテンポや動きまで含めて“どれだけ最後までシームレスに見せられるか”すべてが視聴維持に直結していると感じます。

縦型動画はパーソナルスペースに届く新たなフォーマット
―縦型動画が主流になっている背景は、どのあたりにあるのでしょうか?
小林:スマホで動画を視聴するのが当たり前になったことが、大きな理由のひとつだと考えられます。スマホは20年以上も前からありますが、縦型が主流になった背景には、TikTokやInstagramなどといった縦型UIを前提にしたSNSの登場が影響していると思います。
長塩:特に若い世代にとって、画面ロックを外して横に向ける、そのワンアクションがあるだけで離脱につながってしまうことも多い。動画が生活に溶け込みすぎた結果、持ち替える・角度を変えるといった行為すら、視聴のテンポを崩す要因になってしまいました。
縦持ちは自然で、ユーザーは“低カロリー”で刺激を摂りたい。その欲求に縦型動画は完全にフィットしていると感じます。
磯崎:私自身も「横画面でご覧ください」と出た瞬間スワイプしてしまうことも多いです。ストーリーズ投稿も縦ばかりで、写真自体を横の画角で撮影する人も減っている印象です。また、生活者もテレビを視聴しながら、同時にスマホも触っており、 結局、いちばん身体的に近いメディアはスマホで、その入り口が縦型になっています。

ーでは、縦型動画には横型にはないどんな特徴があるのでしょうか。
長塩:一番の特徴は“心理的距離の近さ”ですね。友達と話すくらいの距離感で、自分ゴト化が起きやすい。縦型はパーソナルスペースに入り込んでくるメディアなので、「これは私のための動画だ」と自然に感じてもらえます。メッセージが日常の延長で届くため、脳に”ダイレクトに響く”ような距離感があります。
小林:最近特に感じるのは、率直に語りかける“ストレートトーク”が受け入れられやすくなったことです。心理的距離が近いので、画面に人が映るととても大きく見えて、まるで自分に直接語りかけられているように感じます。昔は横型で言葉を少なめにして余白で魅せる表現も多かったですが、縦型ではより直接的に言葉で伝える表現が増えています。
磯崎:私が担当するビューティー系や飲料系の案件だと、縦型の商品が多いため、画面いっぱいに気持ちよく見せられます。縦型ならではの“迫り方”ができるのは大きな利点ですね。それに今は、一般の方でも“すごい動画”を簡単に作れる時代です。一般ユーザーの投稿から学ぶことも多く、その創意工夫が業界全体の表現力を押し上げていると感じます。
縦型動画で接点を積み重ねる。SNS時代のブランドづくり
―今、クライアントはどんな課題を抱えて動画制作を相談されることが多いですか?
小林:一番多いのは、「若年層にリーチできていない」「認知が弱い」という課題です。そこから「ならば縦型動画を作りましょう」という流れになるケースがとても増えています。最初の打ち合わせで“引きつけるポイント”を決め、編集段階でも何度も試行錯誤しながら、最もインパクトのあるカットに仕上げていきます。納品直前までSNSでの反応を意識した微調整は欠かせません。

磯崎:「若者向けに面白い動画をつくってほしい」という相談も多いです。そこで私たちがまず“この動画は何のために作るのか”というゴール設定から一緒に考え、その目的に沿って縦型で何を伝えるべきかを提案します。
長塩:当社の強みは、戦略と表現のバランス感覚にあると思っています。私たちは企業や商品の立ち位置、動画で解決したい課題、そして縦型を選ぶ理由を理解した上で表現に落とし込みます。さらに、トレンドを肌感覚で捉えて“今の空気”に合った提案を継続的にできることも強みです。SNS施策は“長期戦”でもあります。テレビCMは同じ素材を長く流しますが、SNSは継続投稿で好感度を育てていくメディア。コンスタントに接点をつくることで、ブランドそのものが成長していきます。
磯崎:現状では、“全企業が縦型動画を望んでいるわけではなく、温度感にはまだばらつきがある” という状況です。そもそも投稿する公式SNSアカウントが存在しない…ということがよくあります。そういう場合は、当社では別部門と連携しながらSNS運用の体制づくりから社内連携の仕組みからサポートしています。
―TikTokやInstagramのリール、YouTubeショートなど、縦型動画のプラットフォームは様々ですが、使い分けはしていますか?
長塩:基本的には同じ動画を複数のSNSに展開しますが、プラットフォームごとに “相性”があります。X(旧Twitter)ならテキストとの親和性が高くスクエア動画が合うし、TikTokならテンポをもっと速くした方が刺さる。だから企画段階からその特性を踏まえて逆算し、クライアントにも必ず特徴を説明しています。
磯崎:プラットフォームごとにアルゴリズムや利用する年齢層が異なるため、反響の出方にも大きく変わります。また、SNSは動画とコメントが同時に見えるのが特徴。だからこそ、「引っかかり」や「面白い瞬間」を意図的に入れて、エンゲージメントを稼ぐ必要があります。再生数も“いいね”も可視化されるので、投稿しながら改善する“シリーズ運用”もよく見られます。一発で当てるというより、積み重ねて精度を上げていく感覚です。
―印象に残っている事例はありますか?
長塩:ある学習系サービスのプロモーションWeb動画制作です。サービス特有の“ユーザーに強く印象づける体験”をユーモラスに解釈し、期間限定イベントと連動させた縦型動画コンテンツとして表現しました。
キャラクター性や世界観を活かしつつ、思わず突っ込みたくなるような演出や余白を意識したことで、SNS上で多くの反応が生まれ、コンテンツそのものを楽しんでもらえる場づくりができたと感じています。広告色を前面に出すのではなく、“エンタメとして親しんでもらえる体験設計”を重視したことが成果につながった事例です。
縦型動画は企業と生活者をつなぐ“コミュニケーションの場”になる
―今後、動画の役割はどのように変わっていくと思いますか?
小林:動画は、企業と生活者が “コミュニケーションするための手段” として定着しつつあり、それがますますより当たり前になるでしょう。プロモーションの枠を超えて、日常の接点をつくる “基本言語”になってきています。企業がより自然体で、親しみやすい表現を取り入れることで、生活者との距離が縮まる時代になってきています。
長塩:縦型動画とAIの相性は抜群なので、これから大きく進化していくでしょう。縦型は画角が狭いぶん、AI特有のわずかな違和感を感じさせず、予定調和を裏切る表現も受け入れられやすい。また、縦型はまだルールが固まっていない“自由なフィールド”。そこに“何でもできる”AIが掛け合わされば、表現の可能性はさらに広がります。
―これから縦型動画に挑戦しようと考えている企業にむけてのアドバイスをお願いします。
磯崎:若年層にリーチするなら、縦型動画は非常に効果的です。縦型動画を活用して、自然な距離感でコミュニケーションできる企業が、今後より支持されていくことになると思います。
小林:横動画をただ縦に変換しただけの“なんとなく縦型動画”は、もったいないと思います。縦型には、スマホ視聴に最適化された独自の魅力があります。画面いっぱいに世界観を届けられる、視聴者との距離を縮められる──その力を引き出すことで、動画の価値は大きく変わります。
長塩:縦型動画は、企業が生活者と自然につながるための新しい手段です。スマホの中で、まるで会話するように親しみやすく語りかけられるフォーマットだからこそ、ブランドの個性や本音を柔らかく伝えられる。さらに、縦型はまだルールが固まっていない“自由なフィールド”なので、遊び心や余白を活かした表現がしやすいのも魅力です。
私たちは、単なるトレンド対応ではなく、企業の目的やブランドの立ち位置を理解したうえで、縦型ならではの強みを最大化する提案をしています。SNSは一発勝負ではなく“長期戦”。継続的な接点づくりでブランドを育てるために、縦型動画はとても有効な手段です。これから挑戦する企業にとって、「やってみる価値がある」と感じてもらえるはずです。
プロフィール

- 長塩 希代
-
映像クリエイティブ事業本部 ディレクター
「商品説明」を「SNSトレンド」に変える、縦型動画のスペシャリスト。スマホネイティブ世代の文脈を読み解き、商品紹介を拡散性の高いエンターテインメントへと昇華させることを得意とする。デジタル施策の費用対効果を最大化するため、スマホ全画面の可能性を追求し続けている。

- 磯崎 文香
-
映像クリエイティブ事業本部 ディレクター
Z世代の帰国子女。SPEED・IMPACT・SOUNDを駆使し、“飽きさせない”縦型動画を追求している。若年層向けビューティー系広告をはじめ、飲食や自動車など幅広い分野で活躍中。

- 小林 友麻
-
映像クリエイティブ事業本部 ディレクター
スマホネイティブ感覚を武器に、縦型動画の新表現を切り拓く若手ディレクター。日々目まぐるしく変化する映像クリエイティブのトレンドをキャッチしながら、次世代の映像体験を追求している。第12回BOVA縦型動画部門でシルバーを受賞。
