購買体験が多様化する中、店舗での新たな価値提供が求められる小売領域。AIをはじめとするデジタル技術の導入は、顧客ロイヤリティ向上や販売促進のみならず、人手不足など企業課題の解決でも期待されています。
総合制作事業会社である博報堂プロダクツは、トレンドを踏まえたテクノロジー活用、店舗デザインやEC連動など、幅広い分野で実績を蓄積。それぞれの専門人材が結集することで、統合型のソリューションを提供することが可能です。

本記事では、当社が店舗リニューアルを担当した、青山商事株式会社の新店舗「AO+(アオヤマプラス)」をご紹介。4人の担当者へのインタビューを通じ、店舗へのデジタル導入のポイント、OMO施策の可能性について掘り下げていきます。
- Z世代の購買心理を起点に、“スマートに提案する店舗”を企画
- デジタル、空間、クリエイティブの知見を統合し、カスタマージャーニーを構築
- どこでも同じ買い物体験ができるのが、OMO施策の理想像
- プロフィール(取材当時)
Z世代の購買心理を起点に、“スマートに提案する店舗”を企画
青山商事株式会社が展開するスーツ販売店「洋服の青山」。スーツ需要の減少を背景に、Z世代への新たなアプローチが課題となっていました。博報堂プロダクツが相談を受けたのは、2024年の8月。プロジェクトを統括したプロモーションプロデュース事業本部の加藤 康彦は、当時の課題を次のように振り返ります。
加藤:コロナ禍以降の在宅勤務の増加、スタイルのカジュアル化、さらにここ近年の記録的な猛暑による影響を受け、スーツ業界はビジネス変革に乗り出してきています。なかでも、価値観や購買行動が従来世代と大きく異なるZ世代ビジネスパーソンへの対応は、業界共通の課題となっています。青山商事様においても、Z世代ビジネスパーソンの獲得が大きな課題となっていました。大規模な店舗で複数の店員が接客する従来型の販売手法は、Z世代の中には煩わしさを感じる方もいるようです。そうした課題も抱えていました。当社が相談を受けたのは、新店舗構想における内装デザインです。しかし私は、テクノロジー活用を含む、より抜本的な提案が必要と考えました。
小売業界では慢性的な人手不足を受け、デジタル導入がトレンドとなっています。一方、接客機会の縮小は顧客満足度を下げる場合もあり、各社が最適解を模索している状況です。そこで「スマートに提案をしてくれる店」をコンセプトに提案したのが今回の「AO+(アオヤマプラス)」になります。
接客をデジタル化することで、一人でショッピングができ、ECも含むシームレスな動線で商品選択や購入ができる。そんな先進的な店舗を目指しました。一方、店舗ならではの魅力を損ねないよう、レイアウトはセルフショッピングをする「クイックエリア」と、スタッフさんと会話する「コミュニケーションエリア」を区別。“気軽な入りやすさ”と“プロとのコミュニケーション”を両立する設計にしました。

デジタル、空間、クリエイティブの知見を統合し、カスタマージャーニーを構築
こうして始動したリニューアルプロジェクト。加藤の指揮のもと、各部門の専門スタッフにより、チームが編成されていきます。デジタル面の設計を担ったのが、コマーステクノロジー事業本部の吉田 和史です。
吉田:好評をいただいたコンセプトを、どのように具現化していくか。まずは店内でのカスタマージャーニーを緻密に分析し、想定されるアクションごとに、インタラクティブな体験が可能なデジタルサイネージを配置しました。デジタルネイティブのZ世代は、スマートフォンで検索しながらお気に入り商品を探すのが基本です。特に「とりあえず試着したい」というライトなお客さまの場合、スタッフとのコミュニケーションに心理的障壁があることを考慮しなければなりません。採寸、コーディネート検討、購入までをデジタルで完結できるように、コンテンツを設計していきました。
「AO+(アオヤマプラス)」では、各カテゴリーに設置された「AO+ STYLING」のサイネージとスマートフォンを連動させることで、チェックインポイントが付与されます。次にカメラとAIによる「デジタル採寸」を行うことで、サイズに合った商品を探すことが可能に。さらに、顔のタイプや職業から分析される「パーソナル診断」では、自分に合った商品が提案されます。見つけた商品を試着室に持ち込み、バーコードをスキャンすると、着こなしやカラーバリエーションを着用画像で閲覧できる「スタイリング提案」を利用できる仕組みです。
例えば、「デジタル採寸」で気軽にジャケットを試着し、スラックスやインナーを「スタイリング提案」から探す。そんな使い方が可能です。希望する商品が見つかった場合、店舗で購入できるのはもちろん、在庫がない場合などは、店舗スタッフさんがECで購入し、自宅にお届けすることができます。

店舗の空間設計、内装デザインを担当したのは、イベント・スペースプロモーション事業本部の馬路 わかなです。デジタルコンテンツを主軸に据えながら、動線や滞留時間を考慮し、店舗機能と両立させることに腐心したといいます。
馬路:高円寺北口店は駅前の小型店舗であるため、限られたスペースを有効活用するのも課題でした。サイネージを操作スペースと他の顧客の動線は、両方確保しなければなりません。しかし通路を広く取れば、商品棚が縮小され、在庫数が減ってしまいます。EC連動による在庫確保を含め、できる限り効率的なスペース活用を目指しました。
また、来店者が「AO+(アオヤマプラス)」のコンセプトを理解する工夫も必要です。店舗入り口では案内板にて「①レコメンド」「②サイジング」「③スタイリング」「④フィッティング」「⑤コンサルティング」と、店舗利用の流れ説明。各サイネージや「クイックエリア」「コミュニケーションエリア」に迷いなく辿り着けるよう、店内マップやサインも充実させました。
内装デザインでは、デジタルの先進性を前面に出すとともに、ブランドの世界観を守ることも意識しました。「洋服の青山」のブルーを基調としつつ、デジタルのワクワク感を醸成するため、壁面は「AO+(アオヤマプラス)」のロゴを入れたクリアガラスで装飾。グリッド型の照明で先進性を演出するとともに、買い物体験の没入感を高めています。一方、商品棚は木目調にし、モダンで落ち着きのある雰囲気に。アパレル店舗としての魅力も、しっかりと楽しめるようにしています。

店舗コンセプトやキービジュアル、タグラインメッセージなど、クリエイティブ全体を統括したのは、動画コンテンツクリエイティブ事業本部の伊藤 亮佑です。
伊藤:デジタル導入の本質は効率化や先進性ではありません。その先にある、 “商品を選ぶ楽しさ”です。ステートメントに設定した言葉は、「えらぶを新しく、青山プラス。」。これまでとは違う、“新しい売り方・買い方”を、お客さま視点の“えらぶ”というワードに集約させました。
サイネージや店内サイン、販促物などのトーンを統一させるため、初期段階でデザインフォーマットを作成しました。これは、我々博報堂プロダクツのスタッフだけでなく、クライアントサイドの制作チームも統一のフォーマットを活用することで、世界観の乖離を防止するのに役立っています。
青山商事様が発信する情報や店舗内のポップが、意図する買い物体験とギャップが生じてしまうと、施策の効果が薄れてしまいます。また博報堂プロダクツのスタッフも、限られた期間でスピーディーに進行するためには、各々の担当者が個別に提案を行わなければなりません。その際に世界観が崩れないためにも、統一されたデザインフォーマットは欠かせない要素でした。

どこでも同じ買い物体験ができるのが、OMO施策の理想像
「AO+(アオヤマプラス)」の高円寺北口店は、2025年10月にオープン。また、翌年2026年2月には八王子北口店も開店し、新しい買い物体験の提供が始まっています。加藤は、博報堂プロダクツの広範な専門性を結集できたことが、プロジェクトの成果につながったと振り返ります。
加藤:デジタル、クリエイティブ、空間設計、施工など、今回は各担当者がフロントに立ち、日々生じる顧客課題にアプローチできたことが、成功につながったのだと思います。先進テクノロジー、生活者心理、手触り感のあるクリエイティブなど、それぞれを理解し、施策に落とし込めるのが、私たちの強みです。
伊藤:デジタル化で生じがちなのが、課題解決を追求するあまり、エンドユーザーのメリットを見失ってしまうこと。やはり店舗というサービス空間である以上、接客などの魅力も欠かせません。ブランドの世界観、店舗に足を運ぶ楽しさを損なわず、ニーズにマッチしたデジタルコンテンツを設計することが、デジタル×店舗のポイントだと感じました。
馬路:私は普段、イベントの空間設計を担当することが多く、常設店舗を手掛けるのは初めてのこと。お客さまと従業員の方々が、心地よく空間を使っていただけるよう、過去の知見を総動員しました。ホスピタリティや品揃えなど、青山商事様が大切にされている部分があるからこそ、守る要素、変える要素を明確にしなければなりません。双方が方針を共有できるように、密なコミュニケーションにも努めました。
今後、店舗×デジタルには、どのような可能性が広がるのでしょうか。OMO施策の理想は「どこにいても同じ買い物体験ができること」と、吉田は考えています。
吉田:今回は店舗でのデジタル体験でしたが、逆にECでも店舗のような体験ができるはずです。「デジタル採寸」や「スタイリング提案」はもちろん、スマホ上で商品や顔を合成させるなど、新たなソリューションと組み合わせれば、可能性が無限に広がります。自宅でもボタン一つで最適なコーディネートに出会える世界は、遠い未来ではありません。リアルとデジタルをつなぎながら、それぞれの価値を最大化する。そんな魅力ある体験創出を、今後も博報堂プロダクツは支援していきます。
こうした構想のもと進められた「AO+(アオヤマプラス)」プロジェクトについて、青山商事様はどのような手応えを感じているのでしょうか。今回のプロジェクト事務局の青山商事株式会社 店舗開発部 副部長 木下 俊之様にコメントをいただきました。

木下様:「洋服の青山」では、長年にわたりビジネスウェア専門店として幅広い支持を得てきた一方で、来店客層が固定化し、若年層やライトユーザーとの接点づくりが十分にできていないという課題を抱えていました。こうした課題を背景に、店舗の役割や顧客体験そのものを見直す取り組みとして立ち上げたのが、2025年10月に高円寺にオープンした「AO+(アオヤマプラス)」です。これからの時代に求められる店舗のあり方を再定義し、より入りやすく、自由度の高い購買体験を提供することで、新しい顧客層との関係構築を目指しました。
その実現に向けて、店舗空間の刷新にとどまらず、デジタルを含めた体験全体を一体で設計することがプロジェクトの前提となっていました。博報堂プロダクツの皆さまの提案は、AIやデジタルサイネージといったテクノロジーを導入すること自体が目的ではなく、来店から商品選択、購買に至るまでの体験全体を一つの流れとして設計していた点が印象的でした。
また、本部主導になりがちなプロジェクトの中で、実際の営業店舗の現場にまで足を運び、スタッフ一人ひとりに丁寧に説明しながら伴走してもらえた点も心強く感じています。企画段階だけでなく、オープン後の運用や現場での使われ方までを見据えて設計されていたため、実際の店舗でも無理なく新しい体験を取り入れることができました。
今回の「AO+(アオヤマプラス)」のオープンプロジェクトを通じて、店頭体験とECをシームレスにつなぐ新たな顧客体験の可能性が見え始めています。今後は、博報堂プロダクツの皆さまと事業パートナーとして並走しながら、この取り組みで得られた知見やデータを生かし、全社的なDX推進や店舗体験の進化へとつなげていきたいと考えています。
店舗とデジタルを横断した体験設計を通じて、顧客との新たな接点づくりに挑戦した「AO+(アオヤマプラス)」プロジェクト。博報堂プロダクツは今後も、クライアントの事業課題に寄り添いながら、リアルとデジタルの価値を掛け合わせた体験創出を支援していきます。

プロフィール(取材当時)

- 伊藤 亮佑
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2007年博報堂プロダクツ入社。
ブランディング領域から、フルファネルのプロモーションプランニングまで幅広い領域に対応するクリエイティブディレクター。コピーライターとして、企業理念や行動規範などの開発実績も多数。難しいコトをわかりやすく。難しいトキも楽しく。企画段階から納品するまで全力コミットが信条。

- 馬路 わかな
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2018年博報堂プロダクツ入社。
イベントスペースプロモーション事業本部にて、BtoCポップアップからBtoB展示会・発表会まで幅広いイベントを担当。
企画立案から制作進行、現場統括まで一貫して担い、リアルの場を通じてブランド価値を最大化するプロデューサーとして活動している。

- 吉田 和史
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2014年博報堂プロダクツ入社。
主にリテールテックを中心としたマーケティング・OMO施策の業務に従事。
小売り業界出身。売りの現場からの視点で、マーケティング施策立案/デジタルコンテンツ開発/デジタルデバイスの導入施工管理まで、一気通貫で行えることが強み。

- 加藤 康彦
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2007年博報堂プロダクツ入社。
「全てはお客様のために」を信条に活動続けるプロデューサー
