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音声広告・音声メディアの現状と課題|ブランド体験・新しい接点の創出

音楽ストリーミングやポッドキャスト、ネットラジオの普及により、音声市場そのものは注目されています。
「どう活用すればブランドの“らしさ”や新しい接点を生み出せるのか?」  

本記事では、広告やブランド体験における“音”の役割、そしてAIの進化がもたらす音声広告・音声ブランディングの可能性について、現場のリアルな課題感や事例を交えながら、動画コンテンツクリエイティブ事業本部のクリエイティブディレクター/コピーライター伊藤 亮佑氏に話を伺いました。

 

音声広告の活用と現状・課題を解説する記事のメインビジュアル

音声市場はまだ発展途上──だからこそ、今が面白い

──早速ですが、現在の音声市場について、どのような印象をお持ちでしょうか。

 

まず、音声市場といっても、ラジオなどといった従来型の音声メディアと、SpotifyやPodcastといったデジタル音声メディアがあることを整理しておきたいと思います。ラジオはほかのメディアより“距離”が近いこともあり一定数の根強いファンがいるので、成長はあまりないものの、これからも存在価値はあると思っています。一方、デジタルの音声メディアは、ここ数年大きく成長すると言われ続けていますが、現場感覚ではまだ手探りの段階にある、というのが率直な印象です。

 

コロナ禍が一段落した頃には、「Clubhouse」などの音声SNSは盛り上がり、「Voicy」といった新たなデジタルメディアも話題となりました。しかし、市場の成長は当初の予想よりも緩やかで、盛り上がりもまだ一時的なものにとどまっている印象です。

 

 

──すると、デジタル音声広告についても、まだ成長途上ということでしょうか。

 

私はそう思っています。デジタル音声広告市場は2025年には420億円規模に拡大すると予測されてきました。これは「Spotify」や「radiko」といった主要プラットフォームで広告商品が拡充されたことや、スマートスピーカ向け音声広告ネットワークの登場などの影響が大きいと考えられます。しかしデジタル音声と同様、予測通りではありません。本格的に成長軌道に乗るかどうかは、中・長期的に見ていく必要があるでしょう。

 

【デジタル音声広告市場規模推計・予測2019年ー2025年】

2019年から2025年までのデジタル音声広告市場規模と前年比を示すグラフ

※出典:デジタルインファクト調べ

 

 

──現時点ではブームではなく、さらなる活用に向けて模索しているフェーズなのですね。

 

そうですね。今のところ、音声コンテンツに特化して取り組んでいる企業やプロダクションは限られており、私たちの現場でも完全に音声を有効活用できているとは言えません。

 

広告としての活用はまだ手探りですが、「音」を軸にしたブランド体験やコンテンツづくりは、これからの時代にますます重要になると思っています。将来的な発展に備えるためにも、さまざまな可能性にトライする必要がありますので、現在はラジオ広告やSpotifyなどの音声メディア広告だけでなく、映像制作や店舗ブランディングといった中で、音声にこだわったプランニングを提案する機会が増えてきた状況です。

 

動画と音声、視聴環境の変化が高める「音」の重要性

──最近はYouTubeでもラジオ的なコンテンツが増えているように感じます。視聴態度や環境の変化について、どのように見ていらっしゃいますか?

 

動画の視聴態度の変化は非常に大きいですね。以前は、ある程度しっかりと画面を見てもらう前提で制作していましたが、最近では「ながら見」「流し見」のスタイルが増えています。そのなかで「音の設計」がより重要になってきました。

 

たとえばデジタル動画広告を制作する際、私自身はかなり音にこだわって、視覚以上に「聴覚でどう引きを作るか」「環境にどうなじませるか」を意識しています。これは音声広告にも応用できる考え方で、映像ありきではなく、まず“音”で情報を届け、注意を引くといった設計が近年のプランニングで重要になっていると思います。

 

 

──動画のプラットフォームでも音声のノウハウが活きてくるんですね。一方で、「ながら聴き」ではなく、じっくりと集中して聴くリスナーも増えているという話もあります。

 

まさに私がそうです(笑)。作業しながら聴こうと思っても内容が気になって手が止まったり、逆に作業に集中していて話を聞き逃して戻したりすることがよくあります。私のような人は結構いると思いますね。

 

「集中して聴く」という体験は、広告との相性に大きく影響します。たとえばSpotifyのように音楽の合間に入る広告と、Voicyのようなパーソナリティ主体のコンテンツに挿入される広告では、聴き手の受け取り方がまったく違います。コンテンツに没頭しているタイミングで広告が挿入されると、リスナーの集中が一時的に途切れることがあります。リスナーはパーソナリティの“声”や“語り口”に心を委ねて聴いているため、広告の挿入方法やタイミングによっては、視聴体験に影響を与える場合もあります。

 

いわゆる「差し込み型」の広告ではなく、パーソナリティ自身が自然な流れで紹介する「ホストリード型(番組のパーソナリティが広告を読み上げる形式)」のほうが、相性が良いとされています。

動画コンテンツクリエイティブ事業本部 伊藤 亮佑

 

──音声広告に適した商材やジャンルなどもあるのでしょうか?

 

商材そのものの向き・不向きよりも、「誰が語るか」の方が大きいと思います。たとえば教育系の話をしているパーソナリティが、洗剤の広告をし始めたら、違和感がありますよね(笑)。パーソナリティのキャラクターや語るテーマ領域と広告商材との相性が、何より重要だと思います。

 

「音」を軸としたクリエイティブ設計と広告活用事例

──伊藤さんが音声に注力して取り組まれている事例をご紹介いただけますか?

 

音声だけの広告を依頼されるケースはそこまで多くはありません。いくつかの広告施策があるその一つにデジタル音声広告がある、というのがほとんどです。私の場合、動画広告を作る中で“音”を重視した制作が多いですね。
たとえば、あるBtoB企業の事例では、ブランド認知という課題に対し、ジングルを連呼する形式のバンパー広告を提案・制作しました。バンパー広告だけでメッセージを伝えるのは難しいですが、ジングル(短い音楽や効果音)を覚えてもらうには効果的だと感じたからです。 
企業CMでは、タレントを起用しましたが、バンパー広告ではあえて本人の映像を使用せず、ジングルだけのパターンも制作しました。その結果、ジングルのみのバンパーのほうが成果も良好でした。
※YouTubeなどの動画プラットフォームで使われる、6秒以内の短い動画広告。

 

音と声の使い分けを考える記事の挿絵

「音」と「声」は別物? その使い分けを意識する

──「音」にこだわりを持つ伊藤さんですが、制作する上で特にどんなことを意識していますか?

 

私は「音」と「声」は別物だという考えです。基本的に“音”は環境や空間に溶け込むもの。 “声”は情報を伝えるための手段であり、論理的な理解や感情の共鳴を喚起するもの、と考えています。

 

たとえばBGMを制作する場合は、ブランドコンセプトに合わせた“空気感”を演出する音を選びます。一方でラジオCMを作るときには「伝える構成」や「聴かせ方」に意識を振り切る必要があります。そうした意味でも、“音”と“声”はまったく異なるのです。にもかかわらず、世の中ではどちらも「“音声”コンテンツ」とひとまとめにされがちです。

 

しかし実際には、それぞれに求められる設計思想は大きく異なりますので、メディアの種類やリスナーの集中度に応じて、“音”をどう使うか、“声”をどう届けるかを考え抜く必要があると感じています。

 

 

──ブランディングという観点で言えば、“音”の役割はかなり大きいのですね。

 

まさにそこが音の強みだと思っています。サウンドロゴやジングルは、耳にした瞬間にブランドを想起させ、安心感や信頼感を与える効果があります。「その音が流れている=公式感がある」という印象づけができるのは、音ならではの力であり、他のメディアにはない特徴です。

 

さらに言えば、音には「情景や感情を呼び覚ます力」があります。店舗で流れるBGMや駅の発車メロディによって、そのブランド体験や思い出が一瞬でよみがえった経験は多くの人にあるのではないでしょうか。

 

実際、最近携わった店舗開発の案件でも、ブランドコンセプトから「ブラス(金管楽器)の入らない楽曲にしよう」と決め、有線放送で流すBGMのプレイリストを提案しました。生活者との信頼関係を築くブランディングにおいて、音はまさに“記憶と感情をつなぐメディア”なのです。

 

AIの進化がもたらす音声コンテンツと広告の未来の挿絵

AIの進化がもたらす音声コンテンツと音声広告の未来

──近年はスマートスピーカの普及や音声生成AIの登場など、新たなテクノロジーが次々と現れています。これらが音声コンテンツにどのような影響を与えると見ていますか?

 

確実に変化は起きていると思います。たとえば私自身、企業・業界研究などでは公開情報を活用し、Googleの「NotebookLM」などのAIツールを使って要点を整理し、音声で情報をインプットすることも増えています。

 

ChatGPTやGeminiといった生成AIは、音声コンテンツの制作工程を大きく効率化できる可能性を秘めていますし、多言語変換の技術も急速に進化しています。ある人物の発言を別の言語で、かつ自然なイントネーションで再現できるようになれば、音声コンテンツを“世界同時配信”できる可能性が広がるでしょう。ただし、どの国や地域でも同じように受け入れられるかは未知数です。音声は単なる情報ではなく、“話し方”や“文化的ニュアンス”に支えられているため、単純な翻訳では伝わらない部分が多く残るからです。

 

弊社で6月にリリースした「KOTOBATON™(コトバトン)」も、AIによる動画の多言語化を可能にしたソリューションですが、そういった各言語や文化による微妙なニュアンスに対応するため、AIによる翻訳後に必ず人の目でチェックを入れています。今後どうなるかは未知数ですが、現状においてはAIと人の技術の掛け合わせが、音声市場においても非常に重要であることを実感しています。   

 

> KOTOBATON™(コトバトン)を詳しく見る

KOTOBATON多言語クリエイティブソリューションの紹介画像。左側にKOTOBATONのロゴと「多言語クリエイティブソリューション コトバトン」のテキスト、右側に日本語・外国語の翻訳サービスや多言語コンテンツ制作サービスの説明が記載されている。

 

──AIやテクノロジーの進化を踏まえ、これからの音声市場にはどのような期待を持っていますか?

 

一時期はスマートスピーカに話しかける生活が注目されましたが、最近はさらに進んで、子どもたちがスマホと連動したイヤフォンで音声コンテンツを楽しんだり、AI音声アシスタントと自然に会話したりしています。これは従来のテレビやラジオとは異なる、新たな体験だと感じています。

 

一方で、音声広告や音声コンテンツの取り組みは、まだ「可視化されにくい」「成果が見えにくい」といった理由から、十分に広がっているとは言えません。しかし、だからこそ今後の成長や新しいブランド体験の創出に大きな可能性があると感じています。
音声は、生活者一人ひとりの心に深く届くメディアです。映像やテキストでは伝えきれないニュアンスや温度感も、音や声ならではの表現で伝えることができますし、リスナーの記憶や感情に残りやすいのも特徴です。
特に、音声ならではの「没入体験」は、ブランドと生活者との距離をぐっと縮めてくれるはずです。
広告に限らず、「音」を軸にしたコミュニケーションやコンテンツづくりを通じて、これからも新しい価値や体験を生み出していきたいと考えています。

プロフィール

伊藤 亮佑さん顔写真

伊藤 亮佑

2007年博報堂プロダクツ入社。
ブランディング領域から、フルファネルのプロモーションプランニングまで幅広い領域に対応するクリエイティブディレクター。
コピーライターとして、企業理念や行動規範などの開発実績も多数。
難しいコトをわかりやすく。難しいトキも楽しく。
企画段階から納品するまで全力コミットが信条。