生成AIの進化と普及により、クリエイティブの現場が大きな転換期を迎え始めています。誰もが簡単に画像や文章を生成できる時代において、プロフェッショナルとしての「クリエイター」の役割も変化しています。AIがもたらす創造の可能性と、現場で向き合うクリエイターたちのリアルな声を通じて、「人とAIが共創する未来の表現とは何か」を探ります。

- 生成AI×クリエイティブ活用の現在地
- クリエイティブにおける生成AI利用のリスク
- 制作プロセスの高速化と効率化の狭間で
- AI表現の追求とプロフェッショナルの視点
- 生成AI時代のクリエイター育成とコンテンツ力の本質
- プロフィール
生成AI×クリエイティブ活用の現在地
──皆さんが普段、どのような場面で生成AIを活用しているか教えてください。
渡部:私は企画や提案、映像の実制作から編集まで、一連の工程を担当しています。現時点では、生成AIだけで映像を制作することはありませんが、各工程において作業の効率化や映像表現の研究を目的として、AIツールを導入する流れが生まれています。
金(キム):私は主に制作業務を中心に担っており、生成AIが映像表現にもたらす新たな可能性に注目しています。最近の生成AIは、遊び道具としての側面が強まり、意外性や面白さを楽しむ方向にシフトしているように感じます。あえて現実離れした表現に挑戦する人が増えているのも、最近の傾向ではないでしょうか。
岡田:私はレタッチャーなので、背景の拡張や不要物(看板や人など)の削除といった作業にAIを活用しています。特に時間短縮の面で非常に役立っていますね。ただし、もとの写真を活かすことが基本なので、AIにすべてを任せるような使い方はしていません。昨年はAIを用いた社内作品展を開催したり、「人を使わずにAIだけで制作できないか?」という相談を受けたりするなど、私たちもクライアントも模索を続けている段階です。

小林:私が所属する統合クリエイティブ事業本部では、デザイナーやコピーライター、エンジニアなど多様な職種が集まっているため、AIの使い方も多岐にわたります。たとえば、デザイナーは背景を拡張するのに活用したり、コピーライターは壁打ちツールとして活用したりしています。私のようにエンジニアの立場から見ると、コーディングの領域で大きな変化が起きており、生成AIによって仕事のスタイルそのものが変わりつつあると感じています。
クリエイティブにおける生成AI利用のリスク
──最近注目されている生成AIのトレンドや、感じている課題について教えてください。
渡部:最近の生成AIに関するトレンドとしては、特に映像・動画分野でのツール活用が進んでいる印象です。たとえば、「ChatGPT」や「Runway」、Googleの「Veo 3」など、生成AIを使った映像制作が、実際の業務でも十分に活用できるレベルになってきたと感じています。とはいえ、著作権や利用ルールといったレギュレーションの問題、あるいは「そもそもクリエイティビティとは何か」といった本質的な問いもあり、私自身、まだ手探りの部分が多いです。
岡田:著作権に関する課題が最も大きいですね。使用する場合でも、許諾書を交わすなどのルール整備が必要ですし、それを省略すると後々大きなリスクにつながる可能性があります。生成AIによる作品だと説明しても、『それでは作者は誰なのか?』という問いに、現時点では明確な答えを出すのが難しい場面が多くあります。そうした背景もあり、実制作において生成AIツールの活用には慎重な対応が求められているようにも感じます。
小林: Adobe系ツールは、著作権や知的財産権の問題がクリアされていて商用利用が可能とされているため、クライアントへの提案もしやすいです。実際にFireflyなどは、提案資料の段階でよく活用されていますし、クライアントからの信頼を得やすいと感じています。
金(キム):とはいえ、生成された人物が偶然にも実在の人物と似ていた場合、それが未契約のモデルと見なされる可能性もゼロではありません。そのため、運用ルールは定期的な見直しが必要ですし、会社全体としての対応も常にアップデートしていく必要があると感じます。
「AIだから特別」という意識ではなく、「AIが含まれていることを前提として」として、全体のガイドラインを構築する時期に来ていると感じています。

──生成AIの精度が高まるにつれて、著作権や肖像権の判断が難しい場面も増えてきそうですが、どのように見極めているのでしょうか。
小林:画像生成AIでは、特定の作風に寄せた生成が著作権上のリスクを伴う場合があります。法的に問題がなくても、世間から盗用と受け取られる可能性があるため、社内でも注意喚起を行っています。こうしたグレーゾーンでは、慎重な判断とディレクターの見識が求められます。
渡部:動画の分野でも同様の課題があります。「他の作品から刺激を受けた」と表現されることもありますが、AIで生成された映像が既存作品に似ていると、実務では使用が難しくなります。
AIによる生成物であっても、最終的にはやはり人間の判断が欠かせません。どこまで既存作品に似ているかを確認しながら進める点では、AIツールかどうかに関係なく、従来の制作と変わらない部分が多いと感じます。
制作プロセスの高速化と効率化の狭間で
──現場レベルでのAIツールの活用や制作フローの変化についてもお聞かせください。
小林:すでにカンプや絵コンテを制作する際には、AIがかなり活躍しています。特にイメージを伝えるためのビジュアルが必要な時、いまではAIで構図や表現が完全でなくても雰囲気は十分に伝わるものが出てきますし、作業時間も大幅に短縮されます。
その一方で、制作の中で「決める」作業が非常に増えてきていると感じています。AIが高速で多くの案を出してくれる分、「どれを選ぶか」という判断の負荷が以前より高まっています。これは動画制作、レタッチ、企画、コーディングといった各工程に共通していて、チェック項目や判断の回数が確実に増えています。
岡田:実際に使用する本番素材ではなくても、「イメージ共有のたたき台」としてAIを活用するケースは多いですね。具体的なシチュエーションをプロンプトで出力できるため、効率は確かに上がっています。ただその一方で、以前は手描きのラフで済んでいたものが、より本番に近いビジュアルとして求められるようになり、カンプの精度に対する要望も格段に上がったと同時に、実制作時に表現する難しさを感じています。
AI表現の追求とプロフェッショナルの視点
──AIでしか表現できないような演出や手法が、写真や映像の分野で出てきていると感じることはありますか?
岡田:昨年の秋から部署内で「AIでどこまで作品が作れるか」を検討していくなかで、2025年2月にフォトクリエイティブ事業本部のREMBRANDTで生成ビジュアルをテーマとした作品展「PHANTOM」を開催しました。
私自身、この作品展で「火花を使った表現」の作品も出展したのですが、これを現実で撮影するのは非常に難しいことです。消防法の問題もあって、丸く広がる花火を安全に撮影できる場所の確保が難しいのが理由のひとつなのですが、そうした“現実では難しい表現”、さらには“現実ではあり得ない表現”をAIで再現できるのは、クリエイターにとって大きな魅力だと思います。

生成ビジュアル作品展「PHANTOM」のレポート記事はこちら
「コマーシャル・フォト2025年4月号」生成AI特集に掲載!REMBRANDTレタッチャー作品展「PHANTOM」を振り返る
金(キム):いまでは「右手のコップだけ消して」などの要望にも自然言語で対応してくれる生成AIも多く出てきているので、それは本当にありがたいですね。ですが、「AIに任せきり」ではなく、自分で対応できる部分はしっかり自分でやるからこそ、AIとの共創が成立するのかなと感じています。AIは“決して疲れないアシスタント”のような存在で活用するのが、今はいいのかなと思います。
小林:画像生成AIの初期から活用してきましたが、少し手を加えることで体験型コンテンツに仕立てられる点が非常に面白いと感じています。たとえば、記念写真を加工して“世界に一枚だけの画像”にするような使い方は、一般ユーザーにも受け入れられやすいと思います。従来のツールでは難しかった演出も、AIが補ってくれることで可能になります。
コーディングでも同様で、日本語で指示すれば初級〜中級レベルのコードが生成できます。ただし「なぜ動かないか」を理解するには経験が必要で、こうした課題は今後の教育や業務設計にも影響してくると感じています。
生成AI時代のクリエイター育成とコンテンツ力の本質
──今後、生成AIが当たり前になっていく中で、新しく入ってくる若手クリエイターの育成について不安を感じることはありますか?
小林:これは本当に難しい問題です。おそらく今後の制作は、予算や納期も含めてAIを前提とした設計が一般的になっていくと思います。そうなると、最初からAIツールを使うことが当たり前の世代に対して、従来の「一から教える」教育方法が通用しなくなる可能性があります。

渡部:とはいえ、生成AIを活用して制作や人材育成のコストを削減しようとする流れになってしまうと、全体の品質や信頼性に影響が出てしまいます。AIと人、それぞれの強みを見極めて役割を分担していく視点が大切だと思います。
金(キム):すでにテキストや画像の分野では、AIの存在を前提としたクリエイターへの期待があるように感じます。ただ、本当に伝えたいことがある場合、AIをただのツールとして使うだけでは不十分で、コンテンツ力という本質的な力が問われるはずです。それは、私たちがこれまで大切にしてきた価値観であり、AIがどれだけ進化しても揺るがない部分だと思います。
岡田:生成AIは、すでにあるものを組み合わせたりアレンジしたりするのは得意ですよね。しかし、それだけでは“人の心に届くもの”は生まれません。人間の感性や意図が介在するからこそ、作品に深みが出るのだと思いますし、そこがAIには担えない領域だと考えています。
渡部:最終的には“付加価値”が重要で。「●●さんが作った映像だから観たい」と言われるような存在になること、AIを使っているかどうかに関係なく、その人が手がけたからこそ選ばれる。そこに信頼や評価の本質があると思います。「AIが使えるから任せたい」と思われることは恐らくなくて、「この人に任せたい」と思ってもらえる存在であることが重要だと思います。
──AI生成物に対する生活者の受け止め方も変わっていくと思われますか?
渡部:これは難しい問題ですよね。私たちのような広告制作の現場では、素材がどれだけ面白くても、それが商用利用できなければ意味がありません。生成AIが一般的になる未来では、法整備だけでなく文化的な感覚そのものが変化していくのは避けられないと思います。
どちらが優れているということではなく、形を変えながら共存していくことが必要だと考えます。もしかしたら、この先、創作物の「オリジナル」に対する価値観も変わっていくかもしれません。たとえば、音楽の世界では昔から“サンプリング”文化が存在しますよね。他人の楽曲をヒントにして新たな作品を生み出すという文化が根付いているジャンルでは、AIとの親和性も高いと感じます。

金(キム):個人的にはAIに頼りすぎるのは危険だと感じています。AIを使うこと自体は悪くありませんが、「AIで作れた=自分の実力」と誤解してしまうと、本質的な力が育たないのではないかと思います。若い頃に「このプロモーションビデオは何が良いと思う?」と聞かれて、「かっこいいから」としか答えられなかった経験があります。でも、それだけではプロにはなれません。「何がかっこいいのか」「なぜそう感じるのか」を正しく言語化できること。それがクリエイティブ職の核ですね。
岡田:だからこそ、最初の段階ではAIに頼らず、自分で考え、自分の手で作る経験が必要なんです。全体のプロセスを一度は自力で経験したうえで、初めてAIを効果的に使えるようになると思います。大事なのは、自分の「軸」を持ってAIを使うことです。
AIは確かに効率化やスピードアップをもたらしますが、最終的に「心を動かすもの」を作るのは人間です。大量のデータから導かれた平均的な答えだけでは、想定外の感動や驚きは生まれません。
小林:いずれにしても、近い将来にはAIを使うことが“特別”ではなく“当たり前”の時代がやってくると思います。そのときに本当に求められるのは、「ツールを使いこなす力」よりも、「そのツールで何を表現したいのか」という“意志”や“視点”ではないでしょうか。
広告や映像制作の分野においても、「誰が作ったか」という付加価値は今後ますます重要になると思います。AIを活用していても、それを意味あるものに変えるのは“人”の力です。だからこそ私たちは、常に“作り方”だけでなく、“伝え方”や“込めた意味”と向き合っていくべきだと感じています。
プロフィール

- 岡田 美由紀
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フォトクリエイティブ事業本部 REMBRANDT
1981年 生まれ 東京都出身
2004年 多摩美術大学卒業
2004年 株式会社博報堂フォトクリエイティブ、現株式会社博報堂プロダクツ 入社

- 小林 大将
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統合クリエイティブ事業本部 ウラワザ
大学院博士前期課程修了後、新卒でデジタルコンテンツ制作会社に入社し、デジタルアートや子供向けインタラクティブシステムの制作に従事。2017年に博報堂プロダクツへ入社。現在は体験型広告施策を中心に、イルミネーション、プロジェクションマッピング、デジタルサイネージシステム、AI活用のPoC実施・システム開発など、幅広い制作業務を手がける。

- 金 泰亨(キム・テヒョン)
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1983年生まれ 韓国出身
多摩美術大学卒業、2018年博報堂プロダクツ入社
共感を呼ぶドラマ仕立ての実写映像や、動きで魅せるモーショングラフィックスを得意とし、企画・演出・編集まで一貫して手がける映像ディレクター。
近年は“生成AIを活用した動画制作”にも取り組み、AIクリエイターとして新しい映像表現の可能性を追求している。

- 渡部 正人
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媒体特性を活かした表現やメッセージを、短尺動画を中心に、演出から撮影、編集、3DCG、レタッチまで幅広く手がける。生成AIを活用した動画制作も得意とし、縦横問わずデジタルをベースにマス連動もシームレスに展開。英語案件や既存素材の最適化にも対応し、動画クリエイティブの効果を飛躍させるディレクター/ ビデオグラファー。
