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博報堂プロダクツの各コア事業が追求している専門技術を駆使した新しい取り組み、
最新ソリューションおよびプロフェッショナル人材などを紹介します。

【事例紹介】フィロソフィーと歴史を立体化させる、企業ミュージアム「ホンダコレクションホール」

体験を通じてブランドや製品の歴史や価値を伝える、企業ミュージアム。展示施設やショールームで豊富な実績を持つ博報堂プロダクツは、企画、設計、クリエイティブ、実装、運営、イベント・コンテンツ開発など、さまざまなプロセスでソリューションを提供しています。

 

ホンダコレクションホールの開館25周年を契機に推進されたリニューアルプロジェクト案件のメイン画像

 

本記事では、当社がリニューアルを担当した、本田技研工業株式会社(以下、Honda)のミュージアム「ホンダコレクションホール」の事例をご紹介。プロジェクトの舞台裏、企業ミュージアムの可能性を、4名のプロフェッショナルが語ります。

 

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ホンダコレクションホール リニューアル

75年の挑戦を追体験する、ストーリー展示というアプローチ

2024年3月にリニューアルオープンした「ホンダコレクションホール」は、Hondaの歴史を伝えるミュージアム。栃木県茂木町で1998年に設立され、25周年の節目を迎えたことで、施設リニューアルが予定されました。プロデューサーを務めたのは、プロモーションプロデュース事業本部の大崎 知典。当時の様子を振り返ります。

 

大崎:同施設の当時の展示内容は、3階4フロアにわたるスペースに、歴代の二輪車や四輪車、パワープロダクツ、レーシングマシンなどが並ぶ、数の迫力で魅せるもの。コアなファンにとっては高い満足感が得られ楽しめる一方、より幅広いターゲット層への配慮や動線設計に課題が残っていたことも事実でした。本施設はテーマパーク「モビリティリゾートもてぎ」に立地しており、集客の中心はファミリー層です。これまでのHondaのコアファンが楽しめるミュージアムという枠を越え、偶然立ち寄った家族連れの方でも十分に楽しめる場へとより進化を図り、何度も訪れたくなる体験を通じて来場者数の拡大を目指しました。その中で、Hondaのフィロソフィーや歴史を伝え、未来への期待感を醸成する。それをミッションだと捉えました。

 

プロモーションプロデュース事業本部の大崎 知典と統合クリエイティブ事業本部 伊藤 俊輔の写真

左から、プロモーションプロデュース事業本部 大崎 知典/統合クリエイティブ事業本部 伊藤 俊輔

 

課題に対して最適な提案をすべく、大崎は経験豊富なメンバーでチームを編成。リニューアルコンセプトのプランニングを担ったのは、統合クリエイティブ事業本部の伊藤 俊輔です。

 

伊藤:クルマそのものを楽しむことに加えて、その底流にあるHondaの情熱と挑戦を感じ取る。来場者が明日の原動力を持ち帰れる場にしたいと考えました。Hondaの歩みを改めて調べ、その夢や想いを伝えるために企画したのが、“ストーリー展示”です。75年の軌跡とフィロソフィーを、胸を打つ言葉で紡ぎ、空間として立体化することで、誰もが歴史を体感できるようにする。そうした設計を提案しました。

 

時代を動かした言葉を起点に、展示空間を設計

こうして始動したリニューアルプロジェクト。チームはまず、核となるコピーをつくるため、Hondaに蓄積された資料を読み込んでいきました。伊藤とともにコピー開発を担ったのは、統合クリエイティブ事業本部の追川 知紀です。

 

追川:フィロソフィーを打ち出すためには、私たち自身がその本質を深く理解する必要があります。まずは創業者の著書や創業当時の社内報、映像資料などに残された、歴代関係者の語録を丹念に読み込み、方向性や特徴ごとに分類・整理していきました。それと同時にエポックメイキングとなった製品の開発に携わった方々へのインタビューを何度も行い、その上で社史や製品資料と照らし合わせながら、少しずつストーリーとして組み立てていきました。この作業は施工直前まで続き、約2年間に渡って取り組みました。また並行して、国内の代表的な他社の企業ミュージアムを巡り、効果的な展示手法の分析も行いました。

 

壁面ボードに書かれたタイトルやボディコピーなどのフロア一覧の写真

 

 

徹底した調査により形づくられる、ストーリー展示の骨格。伊藤と追川は、創業以来の歴史を4つのチャプターに分け、各時代を象徴するメインコピーを選定。チャプターをエリア区分や順路と連動させ、来場者が歴史や理念を追体験できる空間へと具現化していきます。

 

追川:施設全体のコンセプトは「夢と挑戦の物語」。最初のチャプターの入口に掲げたメインコピー「人に喜んでもらう技術こそ、本当の技術。」は、創業者・本田 宗一郎氏の言葉を引用し、先人の言葉も積極的に取り入れています。壁面ボードに書かれたタイトルやボディコピーには、取材を通して得られた開発エピソードを取り入れました。簡潔な文字数のコピーにこだわったのは、壁面ボードと製品を眺めながら順路を歩くだけでも、誰もが直感的にHondaの歴史をストーリーとして体感できるようにするためです。

 

空間演出と実装を担当したのは、イベント・スペースプロモーション事業本部の市川 拓史。理念や挑戦の言葉を、来場者の心に響く空間へとどう落とし込んだのか。その工夫とこだわりを語ります。

 

市川:メインコピーは各チャプターの入り口に大きく掲出し、来場者が一つひとつの時代へと足を踏み入れていく構造にしました。チャプター内は小エリアごとに区分し、車両をコピーや写真と組み合わせて展示。フィロソフィーを体現する製品の魅力を、一目で伝わるようにしています。

 

Chapter.1 入口

 

伊藤:直感的にストーリーを感じられるよう、展示点数も再構成しました。リニューアル前はHondaを代表する約300台が展示されていましたが、心苦しさもありつつ、クライアントと緻密に打ち合わせを重ね、客観的なロジックに基づいて、130台ほどに絞り込みました。

 

市川:空間演出で工夫したのは、4つのチャプターを異なる雰囲気にしたこと。時代の変化を感じられるよう、塗装や照明にこだわりました。一台一台をじっくりと鑑賞できるよう、ゆとりを感じる空間設計を心がけ、メッシュ素材の幕を用いて、仕切りをシースルーにするなど、圧迫感を極力排除しています。また来場者が自然に順路をたどれるよう、製品と次の製品をつなぐストーリーを矢印型のボードで示し、動線は床面に着彩するなど、来場者視点の細かな工夫も施しています。

 

メッシュの幕やシースルーの仕切り

 

ストーリーをつなぐ矢印サインボード

 

床に着彩された順路

 

専門技能を総動員する、博報堂プロダクツの連携力

およそ2年に及ぶプロセスを経て、ホンダコレクションホールはリニューアルオープン。動画やパンフレット制作などプロモーションにも注力した結果、オープン3カ月後の来場者は前年比の約2倍に達し、来場された方のSNSなどで話題も拡大していきました。

 

追川:「Hondaの原点を改めて感じ、胸が熱くなりました」「まるで映画を見ているような没入感」「3Dの歴史書を読んでいるみたい」「逆境に立ち向かう熱血系のストーリーを学べる」といった反響をいただきました。感動したというコピーの写真が投稿されていたことも嬉しかったです。

 

大崎:ホンダコレクションホールは、Hondaグループ各社による研修利用も増加しており、若い世代に向けたインナーコミュニケーションの強化にも貢献しています。リニューアル後には、コレクションホールの運営スタッフの方々が展示を見て自発的に紹介方法を考案するなど、運営に関わる皆様のモチベーションも大きく向上しました。長く深い歴史を、実物を通じて体験できる場をつくることで、社員がより自社に誇りを持てる施設にできたことも、本プロジェクトの大きな成果のひとつです。

 

また、チームでは施設内で利用できるデジタルコンテンツも開発。自身のスマートフォンで聴ける音声ストーリーガイドにより、より没入感のあるミュージアム体験を実現しています。

 

伊藤:デジタルコンテンツには展示空間のコピーだけではカバーしきれなかったエピソードも盛り込んでおり、Hondaの歴史をより深く掘り下げられます。2時間以上にわたるナレーションとオリジナル楽曲によって、初めてその歴史に触れる方も、長年のファンの方々も楽しめる仕組みとなっています。

 

デジタルコンテンツの画面

 

大崎:コピー、デザイン、空間、デジタルまで、各領域のプロフェッショナルを結集したのが、今回のプロジェクトでした。限られたスケジュールの中で各施策を同時並行で進める上で、それぞれの世界観を乖離させないことが何より重要です。専門人材を社内に備え、プロフェッショナル同士の連携力を有する博報堂プロダクツの強みが、最大限発揮されました。

 

追川:クライアントも私たちも、同じ“ものづくり企業”。オープン間際まで見直しや調整を重ね、互いに妥協のない現場でした。クライアントが歩んできた壮大な歴史を、誰もが感じられる言葉にしていくことは、コピーライターとしてのキャリアの中でもとてもやりがいある仕事でした。全力を尽くしたこのプロジェクトは、私にとっての集大成とも言えるものです。

 

市川:限られたスペースの中に、75年の歴史を凝縮させるのは簡単なことではありませんでしたが、クライアントの要望には最後まで寄り添うと決めていました。企業ミュージアムは長きにわたって残る空間であり、企業のこれまで培ってきたすべてを展示する場でもあります。個人的にもやりがいと成長を大いに感じたプロジェクトでした。

 

左から、統合クリエイティブ事業本部 追川 知紀/イベント・スペースプロモーション事業本部 市川 拓史

 

歴史という企業の資産は、心動かすミュージアムに変わる

プロジェクトを通じ、チームが実感したのは、企業ミュージアムの可能性です。

 

大崎:ミュージアムは近年、デジタル技術の体験コンテンツが流行しています。しかし企業ミュージアムは10年、20年と利用されつづけるもの。そのときのトレンドやテクノロジーを取り入れることだけが、必ずしも正解とは限りません。言葉の力で、ストーリーという形で企業の本質を伝えるホンダコレクションホールは、ミュージアムの可能性を広げた新たなモデルだと考えています。

 

伊藤:Hondaの歩みと向き合って感じたことは、企業にとって歴史はかけがえのない資産であるということ。
マーケティングは新しいものを求めがちですが、どんな企業でも必ず持っている歴史という資産を活かすことでユーザーとのエンゲージメントを高められるということに改めて気づかされました。
人々を魅了し、クライアントが歴史という資産価値を高める取り組みを、これからも博報堂プロダクツは全力で支援してまいります。

 

左から、プロモーションプロデュース事業本部 大崎 知典/統合クリエイティブ事業本部 追川 知紀/統合クリエイティブ事業本部 伊藤 俊輔/イベント・スペースプロモーション事業本部 市川 拓史

 

プロフィール

伊藤 俊輔さん顔写真

伊藤 俊輔

手法にとらわれない企画で、常に新しいユーザー体験を創出。元々コピーライターという経歴を生かし、コンセプトからインタラクティブ体験の演出まで一気通貫で手がける。CM、グラフィック、Web、SNS、体験コンテンツ、クリスマスイルミネーションなど、守備範囲かなり広め。

追川 知紀さん顔写真

追川 知紀

廣澤康正 個人事務所を経て、2004年 HPC(現 博報堂プロダクツ) 入社。コピーライターとして自動車、住宅、アパレル、デジタル機器など生活者に密着した商品を長年担当。国内外のWebムービーをはじめ、企業サイト、ブランディングなど、toC toB問わず幅広い領域のクリエイティブディレクションも手掛ける。

市川 拓史さん顔写真

市川 拓史

2017年博報堂プロダクツ入社。一級建築士の資格をもつ。
PR施設・展示会・プロモーションイベントなどブランド体験の企画・制作・実施に携わる。
自動車・IT・通信・飲料業界の大手企業を担当し、生活者目線での感動体験をトータルプロデュース。

大崎 知典さん顔写真

大崎 知典

2006年博報堂プロダクツ入社。自動車メーカーを中心に、エネルギー企業、アルコールメーカー、ファッション小売業まで、幅広いアカウント業務を経験。特に大規模展示会、イベントプロモーション業務のプロデュース経験が豊富。プロモーショナル・マーケター、PRプランナー、サステナ経営検定3級取得。