少子化に直面する日本の大学では、教育機関としての魅力や存在意義を発信することが重要化しています。しかし複雑な情報社会においてステークホルダーとのコミュニケーションを図るためには、ブランディングや広報戦略における専門的なノウハウも必要です。こうした中、博報堂プロダクツ 関西支社の「教育・大学専任チーム」は、大学に特化したマーケティング・ブランディング支援を展開。学生や教職員、社会とのエンゲージメントを高めるべく、多彩なソリューションを提供しています。本記事ではチームに所属する4名への取材を通じ、提供するソリューションの内容、PRのノウハウをお伝えします。

左から、長房 弦季(関西支社 プロモーションプロデューサー)、立花 成基(関西支社 プロモーションプロデューサー)、中塚 健介(関西支社 チーフプロモーションプロデューサー)、能勢 緑(関西支社 プロモーションプロデューサー)
- 人口減少の過渡期に備え、蓄積されたノウハウを集約する
- 大学におけるコミュニケーションの要は、“ファクトを重視したPR“
- デジタル社会の若者世代へ、メッセージを伝える実践知
- 大学の独創性を、社会に還元していくために
- プロフィール
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人口減少の過渡期に備え、蓄積されたノウハウを集約する
少子化を背景に、入学者の減少や定員割れが課題視される日本の大学。将来的には再編や淘汰も懸念される中、「広報やブランディングの重要性は高まっている」と語るのは、「教育・大学専任チーム」でリーダーを務める中塚 健介だ。
中塚:入学者の減少は大学運営を長期的に圧迫する一方で、近年は大学進学率が増加。女子大の共学化、デジタル領域などでは学部の新設も目立つなど、大学を取り巻く環境は複雑化しています。同時に、SNSに代表される情報の多様化はコミュニケーションの仕組みを変えており、マーケティング・ブランディング手法も一筋縄ではいきません。長年培った博報堂プロダクツのノウハウを、大学の課題解決に生かしたいと考えたことが、チーム設立の理由でした。
博報堂プロダクツの関西支社では、以前より関西圏の大学への取り組みを進めており、様々なソリューションを提供し、着実に実績も積み上げてきた。その蓄積された知見と関西という地域特性を融合させるべく、2020年に設置されたのが、「教育・大学専任チーム」だ。以後、大学に特化したチームとして実績を重ねている。

中塚:大学のステークホルダーは、受験生、現役生、卒業生、保護者、教職員、学界、地域、国際社会と多岐にわたります。また、教育機関としての人材育成、研究成果や技術開発を通じた社会貢献、文化やスポーツの振興など、世の中における存在意義も大きいです。私たちのチームがめざすのは、こうした大学の価値を正しく、魅力的に伝える架け橋になること。学生募集やブランディングといった直接的な成果のみならず、大学の役割や存在意義を届けていくことを、常に大切にしてきました。
設立から約5年。現在の教育・大学専任チームには、約14名のスタッフが所属する。次に、チームが持つノウハウ、提供するソリューションについて、メンバー3名の仕事とともに見ていく。
大学におけるコミュニケーションの要は、“ファクトを重視したPR“
教育・大学専任チームは、広報・ブランディング支援、共創型プロジェクトの企画・運営など、大学におけるコミュニケーション全般をサポートしている。チームの一人、立花 成基は、主に学生募集や入試広報の支援を手掛けるプロデューサーだ。

立花:受験生向けの大学案内やウェブサイト、SNSプロモーションなど、幅広い施策を担当しています。近年は、高校生とのタッチポイントになりやすいInstagramやTikTokの活用、従来型の紙媒体のデジタルへの移行が求められるケースが増えてきました。そこでチームでは、SNS広告やアカウント運用に関する社内の知識やノウハウを体系化し、施策効果を高める取り組みを進めています。
プロデューサーの能勢 緑が心掛けているのは、キャンパスへ頻繁に足を運ぶことだ。クライアントのニーズを正確に把握した上で、プロジェクトを立案・実施していく。
能勢:私たちの強みは、『現場力』と『生活者視点』に根ざした“実装力”にあります。広告・広報の世界では戦略やアイデアが重視されがちですが、博報堂プロダクツは専門人材が結集した総合制作事業会社。企画立案、制作進行から撮影、編集、校正、納品まで、現場のプロセスを最後まで担うからです。
刻々と変化する大学の課題をリアルタイムで把握するためには、大学の内側を知らなければなりません。クライアントへのヒアリングだけでなく、取材・撮影などの制作プロセスを通じ、学生や研究者のお話を聞くことで、課題への理解を深めていきます。
現場を起点にした制作力は、課題や戦略の設計のみならず、大学の魅力を発見することにもつながっていく。プロデューサーの長房 弦季は、「ファクトを重視したPR」という言葉で、チームの強みを表現する。

長房:世の中にメッセージを伝える以上、一定のインパクトは必要です。しかし大学の場合、どれだけ強い言葉や派手なビジュアルを用いても、実態が伴わなければ共感は生まれせん。特に大学のPR施策で重要になるのは、“ファクト”だと考えます。事実や実績に基づいた情報を掘り起こし、生活者にとって意味のあるストーリーへと再構築することを、私たちは重視しています。就職実績や研究成果など定量的なデータはもちろん、学びのプロセスや教職員の想いまで、定性的なファクトも丁寧に取材・編集する。その結果、『なぜこの大学が選ばれているのか』『どのような未来を描けるのか』といった問いに対し、根拠あるメッセージを発信できるのです。
デジタル社会の若者世代へ、メッセージを伝える実践知
情報が多様化する現代において、広告の効果をPVなどの単純な数値で測ることは難しい。“ファクトに基づくPR”で大学の価値を届ける上では、実際にどのような工夫が施されているのだろうか。
長房:大学のリアルな姿を伝える上では、大学、学生、私たちチームが一体となって取り組む共創型プロジェクトも効果的です。Instagramなどの情報発信では、学生たちと毎月定例会を実施し、チャットツールも活用しながら、編集会議方式でアイデアを出し合っています。キャンパスライフ紹介や授業体験コンテンツは、大学の内側にいる人と一緒に作ることで、より面白いものになるのでしょう。
立花:Instagramのリール動画などは、“高校生に刺さる切り口”と“大学が伝えるべき価値”を短い時間で両立させる、難易度の高いミッションです。私たちのチームがクライアントの本質的な価値を掘り下げつつ、デザインやSNSに精通する社内の他チームと連携して切り口を練ることで、最適なコミュニケーションを提案しています。

能勢:若い世代にとってSNSは、大学の“雰囲気”を見るツールなのだと感じます。近年のユーザーは広告の“綺麗事”に敏感であり、『留学に行ける』『就職に強い』と、大学が伝えたいことを一方的にアピールするだけでは、『自分に合った大学だ』と納得してもらえません。受け手が何を求めるかといえば、やはりリアルな姿なのでしょう。例えば大学案内の写真であれば、完璧な体裁を作り込むのではなく、飾りのないキャンパスの日常を切り取るように撮影する。そうしたクリエイティブが有効だと考えます。
大学の独創性を、社会に還元していくために
教育・大学専任チームは今後、関西エリア外にもソリューション展開していく構想がある。専門性を駆使した大学コミュニケーション支援を通じ、どのような未来をめざしていくのだろうか。
能勢:人口減少の延長上にあるのは、偏差値の順に席が埋まっていく世界です。しかし本来、大学の役割は競争ではなく、独自性の高い教育や研究を追求し、世の中を良くすることではないでしょうか。各大学の個性や路線は尊重されるべきであり、そこから生まれた新たな世界は、私たちの社会にも還元されるはずです。そのお手伝いをすることが、私たちの使命です。
コミュニケーション支援を通じ、社会に貢献する。そのために注力すべき三つの方向性を、チームリーダーの中塚は描いている。
中塚:一つ目は、理念や教育方針、学生の成長ストーリーなどを掘り起こし、大学の“らしさ”を言語化・可視化するブランディング支援。二つ目は、学生との共創によって“等身大”の大学像を届ける広報コンテンツの開発。三つ目は、信頼性のある広報を設計するための、“ファクトに基づくPR”の深化です。大学間の競争はますます激化するため、選ばれる理由を明確に発信することは欠かせません。
私たちは、大学が“未来をつくる人材を育てる場”であることに敬意を抱き、その価値を社会に伝えるパートナーであり続けたいと考えています。

プロフィール
※五十音順

- 立花 成基
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関西支社 プロモーションプロデューサー
大学のブランディングや広報業務に従事。チームには、教育分野の知見が深い方が多いので、日々連携し情報を更新しながら、クライアントに提案などを行っている。

- 中塚 健介
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関西支社 チーフプロモーションプロデューサー
製薬メーカー、酒造メーカー、通信会社などでのプロモーション業務を経て、現在は関西エリアの大学を中心とした学生募集広報やブランディング広報に従事。

- 長房 弦季
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関西支社 プロモーションプロデューサー
大学・教育機関を中心に広告・広報・ブランディング業務に従事。博報堂プロダクツ入社以前から培った知見を活かし、幅広い領域で課題解決型の提案を行っている。

- 能勢 緑
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関西支社 プロモーションプロデューサー
2022年に博報堂プロダクツ関西支社に入社。以降、主に京都・大阪・兵庫の大学を中心に広報・ブランディング業務などを担当。
