小売・メーカーの販促DX支援を行うデジタル販促ソリューション会社として、2022年4月1日に設立されたSP EXPERT’S。2019年のプロジェクト発足から新会社設立に至る経緯や、ミッションに込めた想いとは。変化のスピードが加速し続けるOMO(Online Merges with Offline)領域において、どのような課題解決を推進し、デジタル販促業界全体の発展に貢献していくのか。代表取締役社長に就任した窪田充氏、取締役の李眞煥氏、木村廷龍氏に聞きました。
(写真左から)株式会SP EXPERT’S取締役 木村廷龍氏、代表取締役社長 窪田充氏、取締役 李眞煥氏
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目次
「心を動かす体験」がデジタル販促業界を席巻する
—SP EXPERT’S会社設立に至る経緯や意図、それぞれの役割などについて教えてください。
窪田: 小売・メーカーの販促DXを支援し、生活者への新たな買い物体験を提供すべく、2018年にグループ横断プロジェクトとして立ち上げた「SP EXPERT’S」を、さらに成長させるため今期会社化しました。プロジェクトスタートから2年間で、事業規模が大きくなり、事業戦略面だけでなく、我々のビジョンを実現するために必要な体制や人材、新しい働き方への挑戦など、様々な側面で会社としての方向性を示し、外部アライアンスの強化によってデジタル販促業界全体の発展に貢献していきたいと考えています。
木村:私は、2014年博報堂プロダクツ入社し、マーケティングシステム導入やソリューション開発などを手がけてきましたが、「SP EXPERT’S」には、立ち上げから携らせていただいています。新会社では、事業責任者として、事業戦略を実行していく役割を担っていますが、窪田、李とは同世代で近い感覚を共有していることもあり、フラットでスピーディーな意思決定をしながら、メンバーとともに新しい取り組みに次々着手しています。
李:私のキャリアのスタートはメディアバイイングでしたが、その後、経験したメディア戦略プランニングの素地を活かしてプラットフォーマービジネスに関与したことがきっかけで「SP EXPERT’S」にジョインさせてもらいました。新会社においては、経営管理全般を担っています。法人化は、我々が提供するソリューションで、デジタル販促市場を作っていくんだという覚悟の表れとも言えます。特定の代理店、クライアント、流通に閉じるのではなく、オープンでフラットな社会インフラとして、「販促を通じて生活者の心を動かす体験を提供する」ことがミッションです。
—「販促を通じて生活者の心を動かす体験を提供する」というミッションに込められた想いをお聞かせください。
窪田:販促のDX化は、生活者の買い物体験に大きく2つの変化をもたらしています。
1つ目は「買い物体験の最適化」です。販促施策で収集した購買データをもとに、その人にマッチした情報を届けることで、販促効果を最大化する「運用型販促」の時代が到来しています。生活者にとっては便利で、企業にとっては効率的ですので、この流れは今後加速していくでしょう。
2つ目は「買い物の原体験となる意思形成」です。生活者に好き、楽しい、ワクワクするといった興奮や熱量を与え、自分の心の中に残り続ける原体験とも呼べるような感情を揺さぶる双方向の体験が、デジタルテクノロジーやプラットフォーマーの出現によって増幅させることが可能になりました。
我々が目指しているのは、デジタル化によって生まれているこの二つの世界観をサイクル化させることです。便利さや効率化だけを追求した無機質な社会ではなく、ゲーム性やエンタメ性が付加され、絶妙に調和が取れた社会。マーケティング的に説明するとブランディングと販促を両立させる施策を創っていきたいと考えています。日常的な消費行動の中でも「心を動かす体験」を提供していくことが我々のミッションです。
李:「買い物って大変、だけど、楽しい。」と感じる体験を、誰でも一度はしたことがあると思います。自分が必要とする商品を効率的に購入することができても、無機質で遊びがないと、消費欲自体が低減しかねません。我々は、生活者発想でクライアント課題を捉え直し、ユーザーの気持ちと行動を考え抜いた設計力を強みにしています。テクノロジーを活用して便利さや効率を担保しながら、「買い物が好き」という気持ちや、「探す」「選ぶ」といったユーザー自身の自由で主体的な意思を生むような仕組みを提供していきたいと考えています。
販促基点のフルファネル施策、成功の秘訣は「三方よし」
—以前、取材記事にて「個別課題ではなく“業界課題”と向き合っていく必要がある」ということをお話されていましたが、変化のスピードが加速し続けるOMO領域の販促DXにおける業界課題をどのように捉えていますか。
李:小売業界からは、店頭タッチポイントや購買データを活用したリテールメディアの相談が増えています。少子化が進む中で新たな収益をどのように創っていくか、新たな成長戦略が求められています。一方で、デジタル化が進む中で無数の選択肢の中からどの手法を採用すればよいのかわからないというお声を聞くことも増えました。その背景には、購買行動の多様化、新技術・プラットフォームの登場、広告メニューの多様化が挙げられます。
木村:メーカー側の視点に立つと、従来、生活者が小売で買い物をした場合、小売企業には顧客情報が蓄積されても、メーカーには残らないという問題がありました。しかしデジタル販促の普及により、購買に関するすべての情報がつながり、キャンペーン参加者データをCRMまでつなげることで、一人一人の購買状況や行動をもとに中長期的なマーケティング戦略に活かしていけるようになったというのが、メーカーにとって大きな転機だと思います。
—変わりゆく販促業界課題に対して「SP EXPERT’S」の強みをどのように活かしていかれるのでしょうか。
窪田:業界課題を解決するためには、生活者・小売・メーカーにとって三方よしの取り組みでなければ成立しません。例えば、小売企業はカテゴリー売上全体の向上や新規顧客来店などに課題を感じているのに対して、メーカー企業はカテゴリー内でのシェアアップや棚取りに課題を感じており、課題感が噛み合ってないことがよくあります。我々は、その両方の課題感を熟知したうえで解決策を提示していく必要があり、ときにはメーカーの課題感を小売の課題感に変換して説明することも必要です。また、小売・メーカーの課題解決だけでなく、その施策によって生活者の買い物体験がどう変わるのかという視点で、生活者を中心にそえた取り組みに昇華させることを、我々は重視しています。
木村:デジタル販促市場の業界課題を解決するためには、我々1社で出来ることは限られています。だからこそ、我々はエコシステム発想を大切にしています。小売企業、メーカー企業はもちろんのこと、広告代理店、専業代理店、印刷会社、プラットフォーマー、POSベンダー、テックカンパニー等とのアライアンスを通じて業界課題と向き合う。生活者の買い物体験を豊かにしていくことを通じて、小売・メーカーとの中長期的な関係構築を実現していきたいと考えています。そこで、私たちが開発したデジタル販促ソリューションは一部の限定した代理店に閉じることなく、オープンに公開し、幅広く使ってもらえることを目指すことにしました。デジタル販促市場全体の社会インフラと呼べるレベルまで昇華することを目指し、15兆円と言われる販促市場全体の活性化を牽引するリーダーであり続けたいです。
「社会」という視点が不可欠になる、販促DXの未来
—販促DXの未来はどのようになっていくのでしょうか。「SP EXPERT’S」の展望と合わせてお聞かせください。
窪田:生活者・メーカー・小売三方よしの取り組みの重要性についてお話させていただきましたが、これから先の未来を見据えると、そこに「社会」という視点が加わり、サステナビリティを意識した販促のあり方が求められるようになると思っています。大量生産・大量消費をうながす販促と持続可能性を意味するサステナビリティは一見相反していると捉えられがちですが、必ずしもそうとは言えません。特にデジタル販促と相性が良いZ世代を中心とした新しい価値観や消費行動などを踏まえると、モノを買えば買うほど社会貢献につながる仕組みがスタンダードになる日も近いと感じており、そうなると近い将来「販促」という言葉自体がなくなるかもしれません。メーカーを主語にした「販売促進」、生活者を主語にした「買い物体験」、そこに社会が加わるとどうなるか、販促業界に一歩進んだ新しい価値を創造していきたいです。そのためには、創造力のある組織づくりも重要だと考えています。
—販促DXの未来を創る、創造力のある組織づくりとはどういうことでしょうか。
李:事業としての強さを維持しながら社会変化に対応していくためには、組織としてのあり方も強くしなやかなものでなければなりません。上意下達型ではなく、共創・協業型の組織として、メンバー全員が自律的にリーダーシップを持って取り組める機会を創出することが大切だと考えています。自分なりのリーダーシップが発揮できれば、前例のないことにも率先して取り組むことができますし、煩雑な事務作業も必要だからやろうとポジティブに捉えることができます。また、仕事と家庭の二者択一ではなく、人生のライフステージによって変わり続けるワークライフバランスについても、流動的な自分の選択が自然と周囲に受け入れられるような相互理解の元、個々の能力を最大限発揮してもらいたい。そんな想いで、シェアオフィス導入をはじめとした「時間」「場所」「職種」にとらわれない柔軟な仕組みや文化づくりにチャレンジしています。ちょうど先日まで、窪田が育休を取得したのですが、社長の不在をなんとかみんなで補おうとして発言量も増えましたし、リーダーが率先して休暇取得したおかげで形式上の制度ではなく活きた制度になりました。
窪田:新しく立ち上がった会社だからこそ出来る 「テレワーク時代を前提とした組織運営」のあり方についても日々模索しています。例えば、SP EXPERT'Sでは 「毎日」 全員が集まるWEB会議を開き、自分が抱えている課題感について吐露しあう場を設けています。一見、非効率な場にも見えますが、関係性が希薄になりやすい今の時代において、雑談含みの場を意識的に作ることは重要だと考えています。また、週1回だけは必ず全員リアルで集まる日を作り、その日はZOOMで成立する打ち合わせは禁止しています。せっかくオフィスに集まっているのに、皆バラバラな場所で電話ボックスに入って打ち合わせしていてはせっかく集まった意味がありません。リアルで会わないと出来ないことって何か?常に考えながら行動することを心掛けています。こうした事業成長と個人の幸せを最大化するための組織づくりが、他社とは全然違う価値を生み出す事業成長の原動力になると信じています。
会社のビジョンや組織についてなど幅広くお話しましたが、今回お話したことの実現こそが、会社設立の意図であり、新会社「SP EXPERT’S」が描く販促DXの未来です。今後の取り組みに、是非ご期待ください。
■プロフィール
株式会社SP EXPERT'S 代表取締役社長 窪田 充
2010年博報堂DYメディアパートナーズ入社。デジタルプラットフォーマーと協業した事業開発やソリューション開発に携わり、2014年に博報堂の営業局に異動し飲料メーカーのDX推進を担当。2017年に統合マーケティングプラナーを経て、2018年に販促DXに特化したプロジェクト「SP EXPERT’S」を立ち上げ。2022年にプロジェクトを法人化し、現職。
株式会社SP EXPERT'S 取締役 李 眞煥
2012年 博報堂DYメディアパートナーズ入社。新聞局におけるメディアコンテンツビジネスやイベントのプロデュースを経験。2015年より、統合メディアプラニング部門におけるメディアマーケティング戦略立案に従事。2019年より、LINEやABEMAを活用したメディアビジネス事業、コンテンツ企画のプロデュースを牽引。同時に、販促のDX化に特化したプロジェクト「SP EXPERT'S」立ち上げに参画し、デジタル販促事業を推進。2022年にプロジェクトを法人化し、現職。
参考URL:https://seikatsusha-ddm.com/article/11962/
株式会社SP EXPERT'S 取締役 木村 廷龍
2014年博報堂プロダクツ入社。マーケティングシステムの導入やソリューション開発に従事。2018年デジタル販促領域に関するソリューションを開発・提供する「SP EXPERT'S」の立ち上げに参画。2022年にプロジェクトを法人化し、現職。