2024年10月、愛知県名古屋市に、日本最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」が誕生しました。愛知県が持つ、この地上7階、延床面積約2万3600平方メートルの公共施設は、スタートアップ創出やオープンイノベーションを促進し、ビジネスや研究の新たな拠点として重要な役割を果たすことが期待されています。
「STATION Ai」のオープニングイベントは、2024年10月31日から11月2日の3日間にわたり開催。延べ4,000人が来場したこの大規模なイベントは、博報堂プロダクツ 中部支社が担当し成功を収めました。本記事では、イベント全体統括 平井 重樹 中部支社長、プロジェクトリーダー 山田 真幹、イベントプロデューサー 岡島 和毅、クリエイティブ制作全般を担当した岩田 のぞみにインタビューを行い、この巨大イベントの舞台裏を深掘りしていきます。
博報堂プロダクツ 中部支社 平井 重樹(全体統括)、山田 真幹(プロジェクトリーダー)、岩田 のぞみ(制作)、イベント・スペースプロモーション事業本部 岡島 和毅(イベントプロデューサー)
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目次
・3日間で主催とターゲット、実施内容も全てが異なる大規模イベント
・オープニングイベントのコンセプトは「IGNITION」=起業家マインドに火をつける
オープニングセレモニー&イベント 概要
「STATION Ai」は、愛知県名古屋市鶴舞にある国内最大級のオープンイノベーション拠点。
スタートアップ企業の創出育成およびオープンイノベーションの促進を目的に様々な支援サービスを提供しています。700社を超える国内外のスタートアップ企業、パートナー企業、VC等の支援機関や大学等がSTATION Aiに参画し新規事業創出に取り組んでいます。
オープニングセレモニー&イベント概要
開催日:2024.10/31(木)~11/2(土)の3日間
場所:STATION Ai
目的:愛知県名古屋市にグランドオープンした「STATION Ai」の認知・浸透
山田: 愛知県は自動車産業をはじめとするものづくり産業が盛んな地域です。数年前から、カーボンニュートラルを背景に、地元企業や大学、金融機関、自治体などがスタートアップ創出やオープンイノベーションへの取り組みなど機運が高まっていました。愛知県では、ものづくりの伝統や優れた技術・技能との融合を通じて新たなイノベーションを生み出し、産業の成長を拡大させるスタートアップ・エコシステムを形成するために「STATION Aiプロジェクト」が立ち上がり、STATION Aiはその象徴的な施設としてオープンしました。
平井:STATION Aiは、スタートアップ企業の創出・育成やオープンイノベーションの促進を目的としたさまざまな支援サービスを提供しています。地上7階建てのSTATION Aiには、スタートアップやパートナー企業向けのオフィス、テックラボ、イベントスペース、宿泊施設、託児施設、カフェ・レストラン、愛知県にゆかりのある革新的な事業を興した創業者・経営者の業績を紹介する「あいち創業館」、シンガポール国立大学の関係機関が運営するスタートアップ支援施設「BLOCK71 nagoya」なども併設されています。博報堂プロダクツ 中部支社は、以前から関係のあった東海地区の起業家育成プロジェクトやスタートアップ関連のイベントなどで培ったネットワークを通じて、STATION Aiのオープニングセレモニーのプランニング業務を受注。その後、愛知県のプロポーザルにも参加し、3日間にわたるオープニングイベントを受託することになりました。
3日間で主催とターゲット、実施内容も全てが異なる大規模イベント
山田: STATION Aiのオープニングイベントは、3日間にわたって実施されました。
グランドオープンとなる初日の10月31日は、STATION Aiが主催で完全招待制で行われ、STATION Aiに入居するスタートアップや事業会社、自治体関係者、海外ゲスト、地元企業の方々を中心に約700名が来場。11月1日と2日は愛知県が主催で、国内外のスタートアップ・エコシステム関係者、あいち創業館の展示対象企業となる事業会社の創業家・経営者の方々、イノベーションや起業に興味を持つ全ての方々を対象に。2日は地域のお子様たちを対象に加え約3,300人が来場。3日間それぞれ来場者属性が異なるイベントでした。各日には、来場者に合わせたトークセッション、ブース展示、施設見学ツアー、各種セレモニーなど、多彩なコンテンツを用意し、最終日である11月2日(土曜日)には、地域住民も楽しめるようにものづくり教室、プログラミング教室、最新テクノロジー体験ブースなどのイベントを開催。さらに東海テレビの公開収録など、STATION Aiを知っていただくためのさまざまなコンテンツやイベントを企画・実施しました。
平井:3日間でターゲットや実施内容が全て異なるという非常に珍しいイベントでした。毎晩閉館後にレイアウトや導線を変更するには限界がある為、会場の使い方や装飾物は3日間通して使用するように統一し、コンテンツ内容など各日変更するにしても、最低限の転換で準備できるようにしたりと、とにかく各所との調整を密に行いました。
岡島:イベントは3日間でしたが、イベント・スペースプロモーション事業本部(以下、ESP)メンバー6名は設営を含めて1週間前から名古屋に入っていました。私はこれまでBtoB向けの大きなイベントやカンファレンス、スタートアップ企業のイベントなどの経験がありましたが、 ESPメンバーが6名で対応するというのはかなり大規模なイベントです。
岩田: 私はここまで大きな案件に入るのは初めてでしたが、これまで山田さんと一緒に他の自治体案件なども担当していたので声がかかりました。
山田:企画段階から、イベントや実施コンテンツの内容は社内の様々な部署に相談しながら進めました。例えば、統合クリエイティブ事業本部のウラワザチームには先進デジタル技術を体験するコンテンツを担当してもらい、フォトクリエイティブ事業本部のpodチーム(ドローン撮影の専門チーム)には広報用に施設全景をドローンで撮影してもらうなど、社内の各事業本部や機能を活用しています。来場されるスタートアップ企業や地元企業の方々に、プロダクツが提供できるサービスやソリューションを紹介できたことも、良いきっかけだなと思っています。特に、ウラワザチームによる体験コンテンツは、来場者に大人気でしたね。
オープニングイベントのコンセプトは「IGNITION」=起業家マインドに火をつける
山田:3日間にわたるオープニングイベントのコンセプトは「IGNITION」。この言葉には、着火や点火といった力強い意味が込められています。加えて「起業家マインドに火をつける」という願いも込めています。
岩田:このコンセプトを基に、スイッチをモチーフとしたキービジュアルも制作。このキービジュアルは、さまざまな制作物に柔軟に活用できるデザインでした。元気で明るく、カラフルなデザインは、資料やプレゼンテーションにもぴったりで、スタッフ用のパーカーやストラップなどの備品にも自在に取り入れることができました。8色のカラーパレットは、どの色を選んでも一貫した印象を与えることができます。
岡島:イベントプロデューサーとして、私が最初に考えたのは、このオープニングイベントをどのようにメディアに取り上げてもらうか、そしてどんなビジュアルで私たちの想いを伝えるかということでした。「IGNITION」を象徴するスイッチをモチーフにしたキービジュアルが完成し、その印象を会場全体にどう表現するか、装飾の一つ一つに心を込めて試行錯誤しました。
愛知県ならではの魅力あふれるコンテンツ
平井:イベントは、既存のイベントスペースや打ち合わせスペース、大会議室を活用し、常に4〜5箇所で同時進行していました。セッションは3日間で約40セッションくらいありましたね。あと、地元企業の協力を得て、愛知ならではの魅力を存分に引き出すコンテンツを盛り込みました。
・製造業が多い愛知県ならではのセッション
・トヨタ自動車様によるプログラミング教室
・INAXライブミュージアム様が提供している体験教室
・CNCI(ケーブルテレビ)様によるARスポーツ体験
・ブラザー工業様によるデジタル寄せ書き
・愛知出身のアーティスト鬼頭健吾氏の作品を使用した館内装飾
・有松絞り手ぬぐいにSATAION Aiのタグを入れた記念品
・「あいち創業館」で紹介されている食品メーカー様の商品を使ったフードメニュー開発 など
岡島:演出と進行担当をフロアごとに数名配置し、11月1日には5つのステージでセッションが同時に進行するため、広い施設内でインカムをフル活用し、各所で問題なく進行しているかを常に確認し、綿密に連携しながら進めていました。
山田:これはスタートアップ特有のことかもしれませんが、各セッションに登壇する方々はお忙しい方ばかりで、セッション開始直前まで投影資料を作られて持参される方が多かったです。そのため、登壇者からデータが送られてきたら瞬時にセッション会場に駆け込み、テストを行うという状況が続きました。リハーサルができないため、毎回かなり慌ただしい展開になりましたね。
大雨の影響で新幹線が運休!? 講師が名古屋に来られない!
山田:2日に予定していたメインイベントでもある、特別講演の講師は、実業家であり元放送作家の鈴木おさむ氏でした。当日は東京から名古屋まで新幹線で移動される予定でしたが、移動直前に大雨の影響で運行見合わせとなり、新幹線が動くのを待つのか、来られなかったら鈴木氏なしのプログラムに変更するのか、限られた時間で重要な決断をしなくてはなりませんでした。そこで急遽、主催者と協議を行い、東京と名古屋を繋ぐオンライン講演を実施することに。想定外のハプニングだったため、双方の通信環境や鈴木氏側の準備、STATION Ai会場での投影設営など、リハーサルもできない状況での大きな決断でした。
岡島:他のイベントも並行して開催している中で、この大きなハプニングに急遽対応することとなりました。オンライン講演にすると決まったら、イベント合間のわずか15分の転換タイミングで予備のPCを使いながらテストを行い、ギリギリまでできる限りのことを準備して本番に備えました。
山田:思いがけない幸運にも恵まれました。たまたま鈴木氏の事務所に、コロナ下で作ったラジオブースのような設備があり、ブースを活用したオンライン会議やメディア出演などにも慣れていた鈴木氏や他の皆さんのご協力もあり実現できました。
岩田:オンラインでの実施が決まってから、イベント開始まで3〜4時間しかなく、焦りが募る中で、鈴木さんをはじめ、スタッフ全員がどうすればこの講演を実現できるか知恵を出し合い、いまあるもので工夫を凝らしてみんなでハプニングを乗り越えました。メインステージが進行している中で、バックステージで綿密な連携をしながら迅速に対応でき、急遽のオンライン講演を大きな問題なく終えられたことは、経験豊富なプロフェッショナルが揃っている博報堂プロダクツならではの現場対応力だと感じました。
平井: みんながどうすべきか悩んでいたときに、岡島くんの「オンラインっていう方法もあるんじゃないですか?」という一言がスタッフの意識をまとめ、そこから一気に準備に向けて動き出しました。博報堂プロダクツの土壇場でのチームワークは本当に素晴らしく、非常に感激しました。
クライアントや参加された方々の声
平井:参加者の皆さんからは、「凄かった」「すごく良かった」「たくさんの人がいて驚いた」「装飾が素晴らしいと思った」「さすが、博報堂プロダクツ」と、会う人ごとにお褒めの言葉をいただきました。また、登壇者の方々や来場された方々、スタートアップ各社様がSNSで盛り上げてくれたこともあり、「私のXやInstagramの画面がSTATION Aiで溢れている」「知り合いが何人も参加していて驚いた」という声も聞かれました。また、イベント終了後「あのイベントがこの会場で行われていたとは思えない」と寂しがる声もあり非常に嬉しく感じました。
山田:SNSの好意的な投稿や、別のスタートアップ関連イベントでお会いした方とSTATION Aiの話をすると「あのオープニングイベント、すごかったですよね」と、全く違う場面から話題に上がることがあり、驚くと共に本当に嬉しくて、施設とイベントがセットで語られることをとても誇らしく感じました。私自身もSTATION Aiにコワーキング形式で入居しており、今でも他の入居企業からもオープニングイベントの話題がよく出ます。それは本当にありがたいことで、成功を実感する瞬間でもあります。
岡島:クライアントからは、オープニングイベント用に制作した装飾をそのまま残したいとお声がけいただき、実際に今も残っています。天井に吊るしたバナーフラッグや立体のサインロゴはSTATION Aiの別のイベントでも有効活用されています。また、スタッフ用のパーカーも気に入っていただいて、今も着用している方がいらっしゃいます。これらがイベントの成功を物語っているようにも感じます。
(※ブラザー工業様によるデジタル寄せ書き)
イベントを通じて得た経験と学び
山田:私たちにとっても新たなスタートとなったオープニングイベントでした。STATION Aiのオープニングイベントは大成功を収めましたが、STATION Aiに入居している企業の皆さんに博報堂プロダクツを知っていただく良いきっかけにもなりました。この経験やネットワークを生かし、スタートアップや新規事業開発の領域での仕事をさらに増やしていきたいと考えています。
岡島:名古屋という東京とは異なる場所での大規模なイベントを経験できたことは非常に貴重でした。博報堂プロダクツの強みは専門領域の横連携にありますが、これが東京以外の地域でも実現できるという自信を得ることができました。STATION Aiのような大規模なオープニングイベントの成功がきっかけとなり、さらに多くのイベントの依頼が来ることは、私たちの領域拡大にもつながると思います。私は中部支社と仕事をするのは今回が初めてでしたが、このイベントを通じて山田さんと他の仕事でも一緒に取り組むことができ、信頼関係を築けたことも嬉しいですね。
岩田:新卒で入社して以来ずっと中部支社にいる私にとって、東京の他事業本部とこれほど密に連携する経験は貴重でした。この仕事を通じて、ESPとも初めて一緒に仕事をし、フォトクリエイティブの撮影など社内のプロフェッショナル領域を再認識する機会にも恵まれました。非常に大規模なイベントだったため、自治体やクライアント、さまざまな関係者とのコミュニケーションを円滑に進められたことも、貴重な経験となりました。
平井:中部支社としてとても大きなプロジェクトでした。このイベントの成功は支社にとって大きな強みとなり、私自身にとっても大きな自信につながりました。スタートアップ関係者の方々に博報堂プロダクツの認知度が上がったことも嬉しい成果です。イベントの企画進行、セレモニーの演出、PR施策、各種コンテンツにクリエイティブ制作など、20名を超えるプロダクツメンバーが、それぞれの専門性を発揮して推進しており、とても力強いチームでした。新たなプロジェクトに参画することがあれば、自信をもってすすめられます。
プロフィール
平井 重樹
中部支社長 全体統括
山田 真幹
中部支社 イノベーションデザイン部 イノベーションデザインチーム プロジェクトリーダー
岩田 のぞみ
中部支社 ビジネスデザイン部 プロモーションプロデューススタッフ クリエイティブ制作
岡島 和毅
イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース3部 エクスペリエンスプロデューサー
スタッフリスト
中部支社:山田 真幹、平井 重樹、西川 忠亨、浅井 元規、岩田 のぞみ、金川 周炫、竹本 真奈美、本江 弦太
イベント・スペースプロモーション事業本部:岡島 和毅、松本 奎史郎、浦 英一郎、中嶋 勝啓、西尾 優俊、永田 聖
統合クリエイティブ事業本部:國松 祥一、室井 なな、西田 騎夕、武井 亮、橋本 陽介、小林 大将
プロモーションプロデュース事業本部:中西 崇博
フォトクリエイティブ事業本部:松浦 嵩、大津 央
関連サイト
▼STATION Ai https://stationai.co.jp/