データからエグゼキューションへ【Vol.2】 「マーケティングDevOps」とデータマネジメント

 

f:id:hpr_torihara:20220218164851j:plain連載「データからエグゼキューションへ」。第2回は、ソフトウェア開発の概念である「DevOps(デブオプス)」をマーケティングに適用し、「戦略」「運用」「システム」の三位一体のプロジェクトに取り組んでいるチームを紹介します。博報堂、博報堂プロダクツ、2021年に博報堂DYグループの一員となったデータブリッジ──。それぞれの立場のプロフェッショナルが、「マーケティングDevOps」の考え方や、このチームの強みについて語りました。

柳沼優樹
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
マーケティングプラットフォーム部 ビジネスプラニングディレクター

千葉悠人
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
コンサルティング部 ビジネスプラニングディレクター

磯村亮太朗
博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部
CRMデザイン部第3コンサルティングチーム データマーケティングプランナー

飛松信太朗
データブリッジ プランニング統括担当

藤崎隼人
データブリッジ データ分析エンジニア

マーケティングDevOpsの3つの要素

──「DevOps(デブオプス)」は、もともとはソフトウェア開発の考え方ですね。マーケティングにおけるDevOpsについてご説明いただけますか。

柳沼
「Dev」は開発(Development)、「Ops」は運用(Operations)のことで、開発と運用を一体化した手法をDevOpsといいます。「つくる」工程と「使う」工程のそれぞれの担当者が連携し合って、ソフトウェアやシステムをより高水準なものにしていくことを意味する言葉です。僕たちのチームは、そのDevOpsを「戦略」「運用」「システム」の3つの要素として捉え、その三位一体でクライアントのマーケティングDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援していく体制をつくっています。

マーケティングには「戦略」が必要であり、その戦略を実現するには施策を具体的に「運用」していかなければなりません。さらに運用のツールとしての「システム」も重要です。その3つの要素の間を行き来しつつ、それぞれの要素を必要に応じて柔軟に変えていきながら、クライアントのビジネスを成功に導くのがマーケティングDevOpasの基本的な考え方です。

飛松
一般的なプロジェクトは、最終的な成果物の完成に向けて、各工程のスタッフが決められた役割を果たすわけですよね。しかし、マーケティングは顧客の反応や市場動向など、日々変化していくものを対象とした取り組みです。その変化に応じて、戦略や運用方法やシステムを柔軟に変えていく必要があります。「動いていくプロジェクト」をマネジメントする手法がマーケティングDevOpsと言っていいと思います。

──クライアント支援は、戦略の策定から始まるのですか。

千葉
そのケースが多いですね。僕たちのチームでのご支援の対象は、一般的なマーケティング支援とはやや異なります。通常、利益や売上額などの事業目標がある時、その手段として新規顧客の獲得や、既存顧客のロイヤリティ向上などの活動のテーマがある程度定まった段階でお話を頂きその戦略を練ることが多いかと思います。

しかし、僕たちは、そもそもの事業目標を達成するためにどんな活動テーマが必要かを考える段階から並走することが多いです。また、ただ戦略を描くだけではなく、クライアントの組織や人員なども加味し、今の組織体制でコストを抑えながらどう運用するかを含めて検討していきます。マーケティングは定常的な活動ですので、それがクライアントの中でワークしなければ絵に描いた餅になってしまうからです。
コストを抑えながら売上を伸ばしていく戦略をクライアントと一緒に考え、具体的な施策に結びつけていくことを強みにしています。

柳沼
「マーケティング戦略」から「事業戦略」に一歩踏み込んで、クライアント目線で事業の成長を目指していくということです。
千葉
通常、広告会社はクラアントのマーケティング活動に伴走するわけですが、僕たちはどちらかというと、伴走する範囲が事業活動全体に広がっているというイメージですね。ですから、支援は継続的かつ長期的なものになりますし、クライアントが納得できる戦略を立案し、一緒に施策を運用していく方法を考え、現場の社員の皆さんが使えるシステムをつくる必要があります。

「実行しながら修正する」マーケティング

──「3つの要素の間を行き来する」という話がありましたが、運用やシステムからさかのぼって戦略を見直すケースもあるのですか。

磯村
それができるのもこのチームの特徴だと思います。僕はこのチームで運用サイドを担当していますが、戦略に沿ってさまざまな施策を運用している過程で、戦略そのものを見直したほうがいいと考えられるケースが出てきます。その際は、戦略サイドに運用側の意見を伝え、戦略の見直しを検討してもらいます。また、施策の結果を戦略サイドと共有して、戦略の方向性を調整していく場合もあります。
柳沼
長い時間をかけて練った戦略がうまくいくとは限らないわけですよね。とくにマーケティングでは、早い段階で戦略を実行に移してみて、その過程や結果を見て最適な方向性を見出していくやり方が有効であると僕たちは考えています。
千葉
戦略がガチガチに決まっていて、その通りに運用をしなければならないということになると、運用側から新しいアイデアが出た場合にそれを採用できないわけですよね。戦略側と運用側で常にコミュニケーションを取って、方向性やアイデアを共有することが大切です。

──このチームが支援できるのは、どのようなクライアントなのでしょうか。

千葉
マーケティングにデータを活用している企業なら、基本的にすべてご支援できます。とりわけ、施策を速いスピードで回していくことを必要とされているクライアント企業、それから、広義のCRMに取り組んでいるクライアント企業に対しても力を発揮できると考えています。
柳沼
例えば、リテール系のクライアントなどですね。小売りの場合、53週のカレンダーの中で、毎週取り組むべきテーマを決めて、適切なターゲットに適切な情報配信をしなければなりません。同時にPDCAのサイクルを高速で回していく必要があります。そのような柔軟な対応が必要なケースでは、僕たちの力をより発揮できると思います。
千葉
一回限りのキャンペーンで終わるのではなく、施策を繰り返しながら成果を上げていくタイプのマーケティングと言ってもいいかもしれません。そのようなマーケティングの取り組みを、川上の戦略づくりから川下の運用やシステムづくりまでを支援できるのが、このチームの大きな特徴です。

「使えるデータ」にするための高度なノウハウ

──このチームにおけるデータブリッジの役割をお聞かせください。

藤崎
クライアントや戦略サイドの要請に従って適切なデータを出していくのが基本的な役割です。たんにデータを出すだけでなく、「このようなデータも使えそうです」、あるいは「このデータとこのデータの間に矛盾があります」といったご提案やご指摘を積極的にしていくようにしています。
飛松
データの粒を揃えたり、整理したりするのもデータブリッジの役割です。例えば、ばらばらに収集してきたデータを「顧客」という軸に統一して、「使えるデータ」にするといった作業です。そのためには、そのデータがどのようなロジックによって集められたものなのか、どのような構造を持ったものなのかを把握する必要があります。
磯村
顧客軸でデータを整理する場合は、プライバシー保護を徹底する必要があります。その点で、プライバシーマークを取得している博報堂プロダクツのメンバーがこのチームに加わっていることに大きな意味があります。プライバシーマークがないと、個人情報に関わるファーストパーティデータは、すべてクライアントの社内でしか扱えないことになります。
飛松
プライバシーマークを取得しているので、クライアント側のポリシーを守った上で、クライアントと同じ環境でファーストパーティデータを扱うことができるわけです。そこにデータブリッジと博報堂プロダクツの連携がいかされることになります。
千葉
戦略サイドから見ると、データブリッジの強みは二つあると思います。一つが、データを分析する前に、どのような「箱」にどのようなデータが入っているかを把握し、それを適切に整理することができる点です。つまり、データマネジメントのスキルがあるということです。それによって、高精度の分析ができるだけでなく、データの用途に関する要望を戦略側から伝えた場合に、その用途でデータを使うことができるかできないか、使えない場合はどうすれば使えるようになるかをスピーディに指摘してもらえます。それによって、戦略策定のスピードも上がります。

もう一つは、データに関する違和感を肌感覚で捉えられる点です。データに当たってみて「このデータ、ちょっと変だな」「データに整合性がないな」ということが感覚的にわかるわけです。その感覚に基づいて検証してみたら、データの集め方に問題があったり、構造上の欠陥が明らかになったりする。そんなケースが少なくありません。データを判断したり、ハンドリングしたりする人的スキルが非常に高いこと。それもデータブリッジの特徴ですね。

──戦略立案のフェーズと運用のフェーズでは、データの使い方は異なるわけですよね。

千葉
そうです。チーム内の役割で言うと、僕は川上に当たる中長期的戦略の立案を、磯村は日々の情報配信やPDCAを担当しています。そのそれぞれに対して適切なデータを選び出してくるのが藤崎の役割です。
飛松
僕は戦略と運用の間で、CRMの高度化や情報配信の自動化に必要な機能を考え、チームやクライアントに提案をしています。その際にももちろん、適切なデータを活用することが必要です。

正しいデータを、正しく持って、正しく使う

──マーケティングにおけるデータマネジメントの重要性とはどのようなものですか。

柳沼
データマネジメントとは、簡単に言えば「正しいデータを、正しく持って、正しく使う」ことです。データはマーケティングにおける血液のようなもので、スムーズに流れなければ活動を滞らせることになるし、エラーの原因になることもあります。健康な血液を正常に循環させるための取り組みがデータマネジメントということです。
千葉
データマネジメントには二つの視点があります。一つは空間的な視点で、「どのデータがどこにあるかを把握して整理する」こと、もう一つは時系列的な視点で、「データがどの時点で収集され、どの時点で更新されたかを把握して整理すること」です。そうやってデータの整合性をつくっていくことがデータマネジメントであり、このチームではその作業を一から任せていただくことが可能です。
藤崎
クライアントによって、しっかりしたデータ定義書がある場合とそうではない場合があります。定義書がすでにある場合は、それをしっかり読み込んで、理解するところからデータマネジメントの作業は始まります。一方、定義書がない場合は、データテーブルやデータベースなどをすべて紐解いて、それぞれがどう結びついているのかを整理することが必要です。

飛松
例えば、事業ドメインごとにIDを発行していて、一人の顧客が複数のIDをもっていたり、オフラインとオンラインで別々のIDを発行していたりするのはよく見られるケースです。データブリッジにはそのようなデータを適切に整理統合するノウハウがあります。そのレベルからデータマネジメントができる事業者は、あまり多くはないと思います。
磯村
運用側の視点で見ると、施策の実行に当たって必要なデータと実際に使っているデータがずれているといったケースがあります。データブリッジのメンバーが、運用の前の段階でそのようなずれを見つけて修正してくれるのはとてもありがたいですね。

──このチームで発揮されている博報堂の強みについてもお聞かせください。

飛松
クライアントへの対応の速さ、判断の速さ、工数のコントロール力などが挙げられると思います。総じて、マーケティングプロジェクトのマネジメン力が非常に高いと感じています。
藤崎
スピード感がすごいですよね。これまでの経験値とクライアントの事業に対する理解力があるので、いろいろな物事をスピーディかつ適切に判断していけるのだと思います。
柳沼
先ほども話が出たように、マーケティングは動的な取り組みです。常に変化していくプロジェクトを、KPIをぶらさずにハンドリングすることができる。それが博報堂のスキルと言っていいかもしれませんね。

マーケティングをよりコントローラブルに

──チームの現在の課題がありましたらお聞かせください。

磯村
今後、より大きなプロジェクトに取り組んでいるためには、人材の拡充が必要だと思います。
柳沼
僕たちの仕事にはエンジニア的な知見がある程度求められるのですが、コードが書けるほどのスキルは必要ありません。技術的なことを理解できて、要件定義ができればいいので、Mar-Tech系のシステム活用が求められるCRM系の人材にマスマーケティング系の人材をコンバートすることは難しくはないと考えています。そのような人材コンバートの仕組みをつくることが現在の課題です。
千葉
デジタル人材が社会全体で不足していると言われています。では、デジタル人材とはどのような人材か。僕は、「自分でソフトウェアやシステムをつくる必要はないけれど、社内外のデジタルの専門家と話せる言葉を持っている人」と定義しています。自分たちとバックグラウンドが違う人たちとコミュニケーションを取りながら仕事ができるリテラシーや思考構造を持っている。そんな人材を育成していく必要があると思います。
飛松
エンジニアリングは、曖昧さが許容されない世界です。エラーのないシステムをつくるには、厳密な要件定義が必要だからです。そのような世界とマーケティングの世界の橋渡しができる人材を育てていきたいですね。

──今後に向けての意気込みを最後にお聞かせください。

藤崎
クライアントが求めていること、戦略サイドが求めていることをより深く理解して、最適なデータを出していくスキルを磨いていきたいと思っています。
飛松
このチームで現在支援させていただいているのはCRMの案件が多いのですが、さらにさかのぼって、データを活用しながら認知やブランディングとCRMを結びつけていく取り組みにチャレンジしてみたいと考えています。

千葉
クライアントの事業の責任者レベルの方々、現場のご担当者、データ管理者、システム管理者──。そういったそれぞれの立場の皆さんとコミュニケーションできるチームでありたいと思っています。クライアントの事業に伴走しながら、マーケティング部全体の機能を代行し様々な活動を軌道に乗せる。それらを徐々にクライアント組織に根付かせながら、常に”今”必要な取り組みに挑戦し続けていきたいですね。
柳沼
マーケティングをよりコントローラブルにしていくことがこれからの目標です。取得できるデータやツールには限界があるので、やりたくてもできないことがまだまだあります。その限界を突破して、自分たちがやれること、コントロールできることを増やしていきたい。そう考えています。
  • 柳沼 優樹
    博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
    マーケティングプラットフォーム部 ビジネスプラニングディレクター
    2012年に株式会社博報堂に入社。2018年に自動車メーカーの全社DX改革組織に出向後、2019年から現組織に着任。マーケティング・CRMの統合的なマネジメントやシステム調達時のRFP策定支援等に注力。
  • 千葉 悠人
    博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
    コンサルティング部 ビジネスプラニングディレクター
    2012年に株式会社博報堂に入社。広告戦略立案を担当したのち、2015年よりグループ会社の博報堂コンサルティングに出向。マーケティング戦略立案・新規事業開発・企業ブランディング・組織改革など、幅広い領域を担当。その後2020年から現組織に着任。事業~マーケティングにおけるデータに基づく戦略立案とシステム・業務の構想に注力。
  • 磯村 亮太朗
    博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部
    CRMデザイン部第3コンサルティングチーム データマーケティングプランナー
    2016年に株式会社博報堂プロダクツに入社。2018年にデータビジネスデザイン事業本部に配属。1stPartyDataを起点としたCRMなどのアクティベーション領域に注力。
  • 飛松 信太朗
    データブリッジ プランニング統括担当
    2011年に株式会社博報堂プロダクツ入社。ブランド・データ・システムなどの統合的なマーケティングマネジメント支援に注力。2020年より博報堂グループ・データブリッジ社との協業推進を担当。
  • 藤崎 隼人
    データブリッジ データ分析エンジニア
    2012年に事業会社に入社。2019年にデータブリッジ株式会社へ転職。SQL、Python、Rを用いたデータの加工、集計、BIツールを用いたダッシュボード構築、運用に注力。

博報堂WEBマガジンThe Central Dot magazineより転載

 

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