最先端のゲームエンジンによる描画で、リアルな体験価値を再現するバーチャルイベント・サービス「VIRTUAL EXPERIENCE SPACE」。今回は、この「VES」の開発に携わった、イベント・スペースプロモーション事業本部プロデュース二部部長の横山泉と、株式会社Skeleton Crew Studio(ゲーム開発会社)リードプログラマーのラッセル・ワーディンスキーさんに、サービスの魅力や今後の展望などについてお伺いしました。
ゲーム・映画のリアルな3DCGを、オンラインコンテンツへ。
──VIRTUAL EXPERIENCE SPACE (VES)の開発をスタートさせたきっかけは、何だったのですか?
横山
コロナ禍になる前から流行し始めていたオンラインプロモーション(バーチャルコンテンツ)を作るうえで、私が担当していた自動車メーカーでは、製品だけでなく空間や演出にもディテール・クオリティが求められていました。そこで、ゲームや映画で使われている本物と見分けがつかないレベルの3DCGを、オンラインコンテンツでも使用できないかと思って、グループ内のクリエイティブディレクターに相談したところ、ゲーム開発会社のSkeleton Crew Studioにたどり着きまして。2019年11月ころから、Skeleton Crew StudioのラッセルさんたちとともにVESの開発を始めることになりました。
ラッセル
新しいチャレンジでしたので、開発側としては最先端のゲームエンジン技術を使いたいと思っていました。博報堂プロダクツさんや横山さんを通じて、クライアントを歓ばせたという想いがありましたので、その開発に参加させてもらえたことが嬉しかったです。当社が京都ということもあり、これまでのミーティングは100%オンラインで、リアルな横山さんとはまだお会いできていないのですが、とてもフレンドリーなパートナーですね。
横山
じつは当初、スケジュールの組み方の違いから、難しいなと思うところもありました。私たちイベント業界では、ローンチ日から逆算して何ができるかを確認しながらスタートしていくんですが、ゲーム業界では、リリース日を確定させずに、あえてアバウトな日程にしておいて、最大限のクオリティに仕上げられたところで発表するみたいな感じでしたので。
ラッセル
そうですね、スケジュールは基本的に短かったですし、いろいろなトラブルも発生しましたが、そのなかでできることとしては大変スムーズな進行だったと思います。
リアリティだけではない、演出性やツールとしての別の魅力を。
──他社の競合サービスと比較して、VESの特長や魅力、強みや違いは、どんな点でしょうか?
横山
最大の魅力は3点ありまして、まず1つ目は、圧倒的なリアリティのある描画です。他社サービスでは絶対に敵わない部分ではないでしょうか。私たちはVESのリアリティとクオリティの素晴らしさを一番の売りにしていますが、逆に言うと、そのレベルを必要としないブランドや製品では、使い道がなく不向きかもしれません。
ラッセル
やはり、最先端のゲームエンジン技術を使い最大級のクオリティで描画している点が、大きいと思いますよ。
横山
2つ目は、インタラクティブな独自の演出や表現ができるところです。たとえば、自動車であれば、ドアがスムーズに開くとか、クリックするとウインドウが動くとか、3DCGのなかでは何でもできるんですよね。ユーザーが製品に近づいたら、回転させてスポットライトが当たるようにするなど、対象物をどのように美しく見せるのか、独自性を生み出せるのも魅力です。
ラッセル
それぞれのクライアントや製品ごとに、差別化された世界観で演出することも可能ですので、カスタム性もありますね。
横山
3つ目は、商談や会議に特化したコミュニケーション機能です。私自身が、リアルのイベント業務を専門にしているので、キーワードで検索して探しに行くような能動的なものではなく、実際のイベント会場のようにブースや製品などに近寄りたくさせる受動的な情報発信を、バーチャルの世界でも実現したいと思っていました。そこで、重要になるのが、コミュニケーション機能です。お客様から興味を持った製品やブースでアクションを行うとビデオチャットが開始されたり、逆に販売員がお客様を見つけて、コンタクト(通話やメッセージ)をオファーできるなどの機能も作り、バーチャルの世界観を楽しみながらもコミュニケーションが取れるという点にも注力して作りました。
ラッセル
横山さんが言うように、コミュニケーションのツールとしても、VESはとても素晴らしいんです。他社サービスでは、気になった製品についてはメールで問い合わせが送れる程度ですが、VESではプロダクトのメーカーさんにその場で直接相談できたり、1対1の会話ができるのが強みです。
横山
当初はそういうシステムがなかったのですが、私が「こういうことをやりたい」と伝えたら、ラッセルさんたちが、それを現実的に作り上げてくれました。
リアリティの創造世界で、リアルな現実世界を超えていく。
── VESの開発において、こだわったポイントは何でしょうか?
ラッセル
最初からベストなシステムを作りたいと思っていましたので、限られた時間のなかで、毎日毎日、一歩一歩クオリティを磨いて磨いて、開発に取り組んできました。それが、私にとってより良い開発のやり方であり、こだわりですね。
横山
私は、リアルイベントの仕事もしていますので、バーチャルの世界でも導線の設計が、こだわりポイントです。オンラインイベントの空間をどのように作り上げて、どこに何を配置させるかなどもいろいろ考えました。
ラッセル
それから、現時点でベストの描画ができる、ベストなソフトウェアで作ったこともこだわりです。ゲームでもそうですが、時間が経っても古く感じないように、スタイリッシュな世界観を目指しました。そして、リアルな世界にはない、バーチャルならではのリアリティも追求しています。
横山
VESを開発しているときも、「宇宙空間にショッピングモールを作ったら」という、バーチャルでしか表現できない空間のアイデアもありました。無重力の世界で、建築基準法も度外視した新しいデザインを見せるには、どうやったらいいのかというところから始まって、宇宙空間にいろんな企業を呼ぼうとしていましたね。私のなかでは、その想いはまだ終わっていなくて、見せ方の可能性が広がると思いますし、リアリティでリアルを超えていきたいですね。
リアルとバーチャルをミックスした、マルチバースの時代へ。
── 最後に、これからのVES普及へ向けての展望や、新サービスへの想いを聞かせてください。
横山
2021年に、VESのオンラインイベント2件を実際に開催した実績がすでにあり、そのときの空間やシステムを利用した体験版を用意しています。ロゴや製品を差し替えるだけで、リーズナブルかつ簡単にVESのバーチャル空間で体験づくりを提供できますので、いろいろな企業にぜひ試していただきたいですね。
ラッセル
どこのブースへユーザーが訪れて、どんなプロダクトを見たかなどのトラッキングもできますので、まずは体験版から始めるのもいいですね。
横山
また、VESは、イベントプロモーションからスタートしていますが、ECサイトでも活用いただけると考えています。写真を羅列するだけでなく、メタバースのバーチャル空間で売り場を設計して、商品を配置する導線上でどのような購入に繋がるのか、テストサイトみたいな感じで使ってもらいたいなとは思います。
ラッセル
今後は、個人でもスマホアプリから製品を撮影して3DCGデータを作れるようになっていくと思いますので、VESを活用したECサイトにも出品しやすくなるんじゃないですか。
横山
VESのクラウド化も、計画していますしね。現状は、ユーザーのデバイス(PC・タブレット・スマホなど)のスペックに依存してしまっていて、動きが遅くなってしまうケースもあるのですが、クラウド化を実現できれば、デバイスの制約なくハイクオリティなコンテンツを提供することが可能になります。
ラッセル
イベントでも、今後はリアルとバーチャルを同時に開催するケースも増えてくると思います。日本にいながら海外のバーチャルイベントに参加したり、海外の人たちが日本のバーチャルイベントに訪れたり。リアルのイベントに行けなくても、そういう楽しみ方にはVESがおすすめですので、ぜひ使ってみてほしいです。
横山
これからは、リアルとバーチャルのマルチバースが、ますます必要になっていくと思います。リアルでやれることを、バーチャルへ落とし込むというより、リアルの良さとバーチャルの良さをミックスして、さらに素晴らしいマルチバースというカテゴリーを作り上げることのお手伝いができると思いますので、そういう意味でもVESをぜひ試していただきたいですね。そして、イベントのあり方・店頭のあり方・ECサイトのあり方もVESによって進化させていけると考えていますので、これからも時代に合わせたアップデートをしていきたいと思っています。
横山 泉
博報堂プロダクツ イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース二部 部長
オンライン・オフライン問わず「体験」を切り口にしたアクティベーションを企画から実施までトータルでプロデュース。イベントプロモーション領域では、プランニングから制作管理・施工管理・ステージ演出・運営まで総合的に対応。また、デジタルコンテンツの開発にも精通し、オンラインを用いたプロモーションも数多く手がけています。
ラッセル・ワーディンスキー
株式会社Skeleton Crew Studio リードプログラマー
アメリカにある世界トップレベルのコンピューターゲームの教育機関『デジペン工科大学(DigiPen Institute of Technology)』を首席で卒業した後、北米の大手ゲーム会社『Iron Galaxy Studios』で最先端のゲームの開発に携わり、日本に移住後、大手ゲーム会社のゲーム開発に従事して2016年Skeleon Crew Studioを立ち上げる。
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