2022年度の「社長賞」授賞式。博報堂プロダクツ初の試みとして、メタバース空間で実施しました。
博報堂プロダクツの「社長賞」とは、プロダクツグループに多大な貢献をしたチームを表彰する、年に一度の社内アワードです。これまで、社長賞授賞式はリアルで開催しておりましたが、コロナ禍を経て、生活意識・行動の変化に伴い、今回の社長賞授賞式はメタバース空間を活用したバーチャルイベントで開催することになりました。
250名以上が参加したこの大規模なメタバースイベント。本イベントの企画・運営・配信は、デジタルプロモーション事業本部XRクリエイティブチームが中心となり、ベトナムチームと連携して実施。今回の記事では制作メンバーに話を聞きました。
【制作メンバー】
山本 萌絵、五十嵐 ジョアンナマエ、藤原 尚
(デジタルプロモーション事業本部 クロスメディアプロデュース部 XRクリエイティブチーム)
有富 梢、Tran Cam Chi(トラン・カム・チー)
(デジタルプロモーション事業本部 ベトナムオフショア開発チーム )
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【目次】
■サステナビリティをコンセプトに取り入れた空間演出
――創立当初から新型コロナ感染拡大前まではリアルで実施されていた社長賞受賞式。今回初のメタバース空間で実施された経緯などを教えてください。
藤原:総合制作事業会社である博報堂プロダクツでは、クライアント案件としてさまざまな規模のメタバースイベントを手掛けています。その一方で、専門性と実施力を武器とした12の事業本部の中には、モノづくりを専門に手掛ける事業本部もあり、メタバースに全く馴染みのないメンバーもいます。社長賞事務局から、企業としてデジタル領域プロモーションの可能性を拡げるためにも、会社全体のイベントである「社長賞授賞式」をきっかけに、社員自らがメタバースを実際に体験し、自分ごと化することで、ナレッジが社内に広く共有されることをめざしたいと相談を受けたことが始まりです。そこで、メタバースを使った様々な案件の企画・実施を行ってきたデジタルプロモーション事業本部のクロスメディアプロデュース部XRクリエイティブチームを中心にスタッフがアサインされました。
――メタバース空間での授賞式はどのような内容だったのかを簡単に教えてください。
藤原:メタバース授賞式とはいえ、リアル授賞式とほぼ同様の内容で実施しました。前半は受賞案件のダイジェスト映像の上映、社長アバターによるメッセージ、トロフィー授与式、グランプリ受賞者アバターのスピーチなど。後半は参加者同士、また参加者と社長がバーチャル空間でも会話ができるように交流会も行いました。
メタバース空間では、受賞者も参加者も、参加者全員が集まれるメイン会場と、約40名ごとに入室できる交流会用のブレイクルーム10部屋を用意しました。交流会では、かなりリアルな社長アバターを使い、社長本人が各ブレイクルームを実際に訪れ、参加者とリアルタイムで会話するなど、普段なかなかできない交流を楽しみました。
各ブレイクルームでの交流会の様子
――メタバース空間のコンセプト、ならではの仕掛けとはどのような内容だったのでしょうか。
五十嵐:社長賞事務局から「博報堂プロダクツの企業理念である『こしらえる』とともに、サステナビリティへの想いをコンセプトに取り入れたい」というリクエストがありました。そこでまずサステナビリティやSDGsの文脈から連想するワードから、画像生成AIや簡単なエフェクトを活用して、空間のイメージボードを作成していきました。
フィールドには、温かみを感じる緑の木々や芝を、中央のステージ前には人々が円形に集うイメージとして泉を配置し、前半には夜空を、後半はマジックアワーの空を映し出しています。会場内装飾(ソファーや光るオブジェクトなど)だけでなくトロフィーも、受賞者に実際にお渡ししたトロフィー型の記念品をモデリング(3DCG化)して取り入れています。
マジックアワーになった会場の様子。中央メインステージ泉に浮かぶ光のオブジェをクリックすると、各受賞案件の詳細が見られるコンテンツへ遷移できる。
トロフィー授与式
2022年度のトロフィー 兼 社長賞記念品
五十嵐:中央ステージでは、社長アバターが光の渦から登場するゲーム的な演出や、クライマックスでの打ち上げ花火などメタバースならではのギミックを加えて「デジタル×サステナビリティ」の融合をめざしました。
中央メインステージ
社長登場
藤原:社長のアバターは、フォトグラメトリ(複数の画像を合成・解析し、リアルな3DCGを作成する手法)で作成されたデータを利用しています。今回のために作成した受賞者代表のアバターを組み合わせて、トロフィー授与などの一連の動きは自動化。受賞者、参加者のアバター制作には「Ready Player Me(レディープレイヤーミー)」というプラットフォームを活用し、アバターの頭上に所属部署と名前を表示しました。VRに詳しい参加者は、自身のアバターにオリジナルの変更を加えて、サムライやパンダなどの衣装を着せていた人もいました。
スーツ姿のディティールまで表現された、社長そっくりのアバターとオリジナルコスチュームの参加者たち
■詳細なビデオコンテを軸にベトナムチームと連携
――開催の準備はいつ頃からどのように進められていたのでしょうか。
藤原:7月に開催するために5月頃から企画と制作をスタートしました。エンジニアの山本さんたちと相談しつつ、僕と五十嵐さんでイベントの全容を描き、まずはイメージボードやビデオコンテを作成しました。連携する各部署やベトナムオフショア開発チームとそれぞれの役割に添って作業を分担し、詳細なビデオコンテを軸に、ワールドの設計やアバターの制作、配信方法の設定などを具体的に進めていきました。
山本:今回の授賞式では、セキュリティ面、アクセスの良さ、交流性などを考慮して「Spatial(スペーシャル)」というメタバース・プラットフォームを使用しています。2人のアイデアが技術的に実現可能かどうか、Spatial上での検証も行いながら完成像をめざしました。
――ベトナムチームとの役割分担やコミュニケーションはどのように行われたのでしょうか。
山本:ベトナムチームには主に3DCGとエンジニアリングを担当してもらいました。プロダクトマネージャー、3DCGデザイナー、Unityエンジニア、進行管理の合計7名という構成で、XRチームと組むのは初めてのため、コミュニケーターの層をやや厚くとっていただきました。キックオフ後はビデオコンテと指示書をお送りして、オンライン上でやりとりを始めましたが、偶然別件で私がベトナムに伺う機会に恵まれたんです。そこで、直接話せたことをきっかけに、コミュニケーションが一気に円滑に進みました。
有富:ベトナムのオフィスで約1日半かけて、エンジニアなども含めて山本さんと直接打ち合わせや調整ができたことは、とても有意義でした。オンライン上でのコミュニケーションのみだと、微妙なニュアンスなどを伝え合うのがどうしても難しい部分があります。
山本:例えば、授賞式に欠かせない「おじぎ」のモーションも、ベトナムと日本では微妙に所作が違います。文化的な側面のほか、ギミックの詳細などは日本人同士でも伝えることが難しい場合もあります。そういった細かい部分を、現地で一緒にPCの画面を見ながら説明できた事が良かったと思います。同時に、ベトナムチームに、ビデオコンテを読み解く負担をかけてしまっていたという気づきもありました。
チー:技術的な話になりますが、Blenderで作成した3DCGデータをUnityに組み込んだ際に、アバターとアニメーションを連動した動作のタイミングが合わない、アニメーションがビデオコンテのタイミングとずれる、といった問題が発生しました。アバターの仕様と設定の変更でなんとか解決できましたが、制作スタッフ側はかなり試行錯誤しました。
■最新のテクノロジーを体験できる、チャレンジングな場に
――参加者からの評価はいかがでしたか。
五十嵐:メタバース空間に参加した受賞者、招待者のほか、ライブ視聴も含めると250名以上が参加しました。参加者からは、博報堂プロダクツらしいチャレンジ精神のあるアイデアだと好評でした。終了後のアンケートでも「メタバース、百聞は一見にしかず」「リアルなシチュエーションで使用する場がなかったので良い経験になった」などの感想や「インナーイベントなので思いっきり模索することが大事」など、取り組み自体を評価する声もたくさんいただき、非常に嬉しく感じました。普段、話す機会の少ない社長とアバターを通じて気軽にコミュニケーションがとれたことも高評価に繋がったと思います。
――その他に全体を通じて、大変だった点、手応えを感じた点などを教えてください。
山本:私たちは、普段から様々なメタバースのプラットフォームを活用してきましたが、Spatialを扱ったのは今回が初めてでした。スタート前の検証にはかなり時間がかかりましたが、今回の取り組みによって、かなりの知見を貯めることができました。また、私は通常エンジニアとして制作を担当するケースが多いため、慣れないディレクションは大変で、至らぬ点も多かったと思いますが、ベトナムとのチームワークも含めて、多くの学びを得られました。
藤原:私は主にイベント制作進行と併せてライブ配信周りを担当しましたが、イベント配信の経験が乏しく、キックオフ当初は少し不安でした。Spatialの仕様上、ブレイクアウトルームの操作などは一部アナログで行う必要があり、機材の選出や組み方、オペレーションの設定などをゼロから考えました。今回は、まずミニマムなシステムを組み、実践用に拡大する形で成功しましたが、リソースによってはさらなる最適化も可能だと思います。
五十嵐:山本さん、藤原さんと同じくSpatialでのイベント経験がない中、企画段階から実施まで参加させていただいたのは大きな挑戦でした。また、私は今年4月に入社したばかりで、メンバーとのコミュニケーションや個々の特技を掴むという面でも大変でした。ベトナムチームとのやりとりは、有富さんを始めコーディネーターの方々にとても助けられました。
有富:Spatialは私たちにとっても初めて使うプラットフォームだったので、事前に他のイベントやプラットフォームをかなり研究しました。ベトナムチームが立ち上がって初めてのプロジェクトだったこと、また先述の文化やセンスの違いなどによる細かい誤差を修正する際には、都度コミュニケーションと調整に工夫を凝らしました。
―今回の取り組みを経て、今後挑戦してみたい企画などがあれば教えてください。
藤原:これまでのメタバース案件ではプロデューサーとして関わることがほとんどでしたが、今回初めて配信のシステム構築も担当して、楽しく充実した経験を得られました。実は、開始直前に若干の音声トラブルが発生してしまったのですが、うまく乗り越えることができたことも貴重な知見の一つになりました。
今回の学びをより研鑽して「メタバース×ライブ配信」といったさまざまな業務に活かし、課題にも柔軟に対応していきたいと思います。
有富:ベトナムにいる私たちと日本にいる皆さんが同じメタバース空間内で過ごせることは素晴らしい体験でした。コロナ禍も影響してメタバースの活用は増えましたが、まだ一般社会までは浸透していません。例えば、シニアが気軽に集まれる仕組みや、ECと連携して買い物の利便性を向上させる仕組みなどを加えることで、メタバースが生活の中に当たり前に存在する世界の構築に寄与してきたいと思います。
チー:今回初めてメタバース案件を担当して、日本チームとも合流する機会を得られました。(ベトナムの)ホーチミンシティをメタバース化するなどして、デジタル上でベトナムと日本がより交流を深められるような、新しい価値を持ったワールドを作れたらいいなと考えています。
山本:「イベントを1回やって終わり」という形ではなく、メタバース空間をコミュニティや生活圏として継続的に活かせる取り組みを深めていきたいと考えています。ベトナムチームとの連携も含めて、今回の試み全体をアセットとして別のイベントやワールドに応用することも可能ですし、さまざまな意見や希望をいただきながら、メタバースの将来性を拡張するための提案をしていきたいと思います。メタバースイベントだけでなく「メタバース×ライブ配信」などの企画があれば、ぜひご相談ください。
また、デジタルプロモーション事業本部のXRチームではARに関する案件も豊富に手掛けています。今後も新しい技術をどんどん活用して、来年度の社長賞授与式を実施するなど、これからも新技術を果敢に取り入れ、社員みんなが体験できるイベントになればいいなと思っています。
写真左から、山本 萌絵、五十嵐 ジョアンナマエ、藤原 尚
【プロフィール】
山本 萌絵(やまもと・もえ)/デジタルプロモーション事業本部 クロスメディアプロデュース部 XRクリエイティブチーム XRエンジニア
五十嵐 ジョアンナマエ(いがらし・じょあんなまえ)/デジタルプロモーション事業本部 クロスメディアプロデュース部 XRクリエイティブチーム デジタル プロデューサー
藤原 尚(ふじわら・たかし)/デジタルプロモーション事業本部 クロスメディアプロデュース部 XRクリエイティブチーム デジタル プロデューサー
有富 梢(ありとみ・こずえ)/ベトナムオフショア開発チーム GBU
Tran Cam Chi(トラン・カム・チー)/ベトナムオフショア開発チーム GBU