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博報堂プロダクツの各コア事業が追求している専門技術を駆使した新しい取り組み、
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地域資源のアップサイクルをクリエイティブで実現 “もみがらノート”制作ストーリー

廃棄物に新たな価値を与え、再生させるアップサイクルが、持続可能な社会に向けて注目されている。博報堂プロダクツは、ものづくりを通じたサステナビリティ活動「P+ESG」を推進。その一環としてお米の籾殻を活用した「P+ESG ACTION もみがらノート」を制作した。ステークホルダーへの配布を通じ、資源循環を生み出すシンボルアクションとすることで、社会的・経済的インパクトの創出を目指している。

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統合クリエイティブ事業本部、MDビジネス事業本部、広報が中心となり連携した同プロジェクトは、企業ファーム事業を通じて耕作放棄地の課題に挑むNPO法人えがおつなげての協力を得る形で実現した。ノートの開発はどのように進められたのか。携わったメンバーへのインタビューを通じ、制作ストーリーをお届けする。

 

目次:

―ものづくりを通じたサステナビリティを目指す、“P+ESG”のフレーム

―耕作放棄地の課題から、籾殻の再利用にアプローチ

―田んぼで捨てられてしまう材料が、紙に風合いを与える

―紙芝居で表現される、ノート制作の循環型プロセス

―社会と経済、二つのインパクトで、資源と知見を循環させたい

 

 

 

 ものづくりを通じたサステナビリティを目指す、“P+ESG”のフレーム 

 

多くの企業がサステナブル推進に取り組む中、総合制作事業会社である博報堂プロダクツの社会的責任も高まっている。ノベルティー商品や販売品などを手掛けるMDビジネス事業本部の岡本尚樹は、以前からニーズへの対応を進めてきた。

 

岡本:SDGsやESGの定着とともに、環境配慮型のものづくりが求められるようになったのは、数年前からの潮流です。時には工場の労働環境など、細かな製造プロセスについても問い合わせを受けています。生活者や株主、地域社会の要請を受け、顧客企業は新たな事業活動の形を模索している。サステナブルなものづくりにシフトすることは、私たちにとっても喫緊の課題でした。

 

MDビジネス事業本部 岡本 尚樹

こうした流れを受け、博報堂プロダクツは2023年にサステナビリティ方針、調達ガイドライン、ステートメントを策定。具体的な活動フレームとして、ESGにP(ものづくり)を加えた「P+ESG」を掲げている。一連のマインドを社外内へ浸透させるのが、広報部サステナビリティ推進チーム 押本有里子のミッションだ。

 

押本:サステナビリティで重要なのは、社員一人ひとりが日々の業務の中で実践していくこと。ステートメントや『P+ESG』を概念で終わらせないために、社員がアップサイクルを実感できるような体験装置としてのツールをつくりたいと考えました。かねてより自社のサステナビリティコミュニケーションのクリエイティブを手がけてくれていた「SUSTAINABLE ENGINE」メンバーに相談し、アイデアを持ち寄った形です。

 

こうして始動した部門横断型のプロジェクト。アプローチする社会課題は、農業領域が抱える耕作放棄地に絞られた。カギをにぎるのは、お米を取り巻く資源循環である。

 

 耕作放棄地の課題から、籾殻の再利用にアプローチ 

 

食糧安全保障の問題をはじめ、持続可能な食の形が日本でも問われている。一方で地方の農業は、人手不足が深刻化。担い手の減少は耕作放棄地の増加を加速させてきた。この循環を課題視していたのは、株式会社K・M・Jで生産管理に従事する矢島貴史氏だ。

 

K・M・J 生産管理 矢島 貴史

矢島:耕作地というのは手を加え続けることが重要であり、その手段として非食用の資源米が注目されています。お米を資源として捉え、何かの素材として活用する発想で、博報堂プロダクツでも資源米を活用したソリューションを提供していました。古米や廃棄米からはプラスチックやバイオエタノールが、稲藁からはモールド成型品やライスクロス(生地)が、米糠からは石鹸ができるなど、お米づくりで発生する多くのものは、アップサイクルが可能なんです。もちろん食用米であっても、籾殻など廃棄される部分は活用できます。新たな需要ができれば、農産業が活性化し、就労者も増えるはず。今回のプロジェクトに最適だと考えました。

 

博報堂では2011年、山梨県北杜市にある耕作放棄地を従業員が開墾。以来、「はくほうファーム」として運営しており、博報堂プロダクツも農作業体験などに従事してきた。豊洲本社の社員食堂「5615」では、同地のお米「はくほう米」が食材として使用されている。「はくほう米」の籾殻から紙を作れば、ノートを作成できるかもしれない。一つのアイデアから、「もみがらノート」が構想されていく。

 

「はくほうファーム」の運営で連携するのは、NPO法人のえがおつなげてだ。代表を務める農家の曽根原久司氏は、「もみがらノート」の制作が現場課題を解決すると、全面協力を快諾した。

 

曽根原:円安と物価高騰を受け、農業の世界では経営の逼迫が課題となっています。輸入資材に依存せずに農業を持続させるには、地域資源の有効活用が必要です。はくほうファームでは以前から米糠の肥料化などにアプローチしてきましたが、脱穀時に出る籾殻については国内でもアップサイクルの事例が乏しく、低い再利用率にとどまっていました。ノートの材料として活用するのは、大変新しい切り口といえるでしょう。今後のモデル化も期待できるので、プロジェクトへの協力を決めました。



NPO法人えがおつなげて 代表 曽根原 久司氏

 

 田んぼで捨てられてしまう材料が、紙に風合いを与える 

 

もみがらノートの使用シーンは、博報堂プロダクツの社員約2,000名への支給に加え、顧客企業への配布、当社サステナビリティ活動の参加者や学生への配布などが想定されている。ただし広報ツールとして渡すことがゴールではない。サステナビリティに向けた新たな物語を、ユーザーと一緒に創り上げていくことが、企画当初からのコンセプトだった。

 

押本:籾殻からは名刺や封筒も作ることができましたが、使い方を制限しない無地のノートを選びました。常に持ち歩いて、未来へのアイディアやふと気になった言葉を書き留めたり、イラストを描いたり、プロジェクトの構想を練ったりと、ユーザーのアクションにつなげてほしいという思いがあったからです。手帳やタブレットなどに挟んで持ち歩けることを想定し、判型はB6サイズにしています。

 

広報部 押本 有里子

もみがらノートは全40ページ。中面の紙に籾殻が利用されているだけでなく、表紙には「フードロスペーパー」が用いられた。

 

矢島:フードロスペーパーとは、廃棄される食材を使った紙のこと。お米づくりの工程では破砕米という食べられないお米が発生しますが、それを再生紙に混ぜることで紙の白化や滲みを防止しています。また着色部分には、『ライスインキ』という糠油から作った国産のバイオマスインクを使用。原料は全て、日本の田んぼから生まれています。そして製紙のプロセスはFSC認証を取得した工場で実施。古紙再生の観点から、金具を使わず糸で綴じる仕様にしました。

 

そもそも籾殻を使用した紙は販促品として商用化されていないため、ゼロから開発しなければならない。印刷工程でも障壁は多かったと、矢島氏は振り返る。

 

矢島:全てゼロからの開発で、紙の色、厚さと斤量、そもそも印刷が可能か、製本が可能かなど、すべてが未知数のなかでのスタートで、ノートの製品設計をするのが大変でした。着色部分に白い抜けがありますが、これは印刷時に粉が入ってしまうのが原因。通常であれば取り除きながら機械を回さなければなりませんが、製本部数の制約もあったため、印刷所に無理をいって協力してもらいました。仕上がりとしては、紙に籾殻の粒が残っているなど、触り心地の良い質感になっています。

 

紙の前例がないことは、原料提供者にあたる曽根原氏にとっても挑戦だった。籾殻は籾すりという作業によって出てくる、本来は余分な部分。それを出荷するためには、厳重な管理が必要だからだ。

 

曽根原:原料として出荷するのは初めてなので、『どの程度の分量がとれるか』『水分量は適切か』と、普段は意識しないことにも気を配りました。提供者としての責任があったので、品質管理には時間をかけましたね。

 

 紙芝居で表現される、ノート制作の循環型プロセス 

 

環境配慮型のものづくりに加え、もみがらノートは機能性やデザイン性も重視されている。統合クリエイティブ事業本部のコピーライター三浦奈津実は、資源循環という広大なテーマを、やさしく伝えることに注力したという。

 

三浦:難しいことを解きほぐしたり、ユーモアを交えたりしながら世の中に広めていくのは、普段の仕事から心掛けていること。もみがらノートでも、情報をつめこみすぎず整理することを意識しました。表2と表3では、ノート制作ストーリーを入り口に、『P+ESG』の取り組みについて、カジュアルに興味を持ってもらえる構成にしています。小学校での配布なども想定し、やわらかい言葉づかいに配慮しました。

統合クリエイティブ事業本部 三浦 奈津実

ビジュアルを担ったのは、統合クリエイティブ事業本部のデザイナー・桜井成美だ。「サステナブルな循環を、わかしやすく可視化した」と、デザインコンセプトを語る。

 

桜井:単なるグッズのような、もらっただけで終わってしまうのを避けたかったので、選んだり集めたり、使う楽しさを提供できるよう、ノートは『P+ESG』の4色でパターンを作りました。表紙のイラストはノートを並べるとつながり、人と自然の営みが循環することが感じられるような仕組みになっています。

ノートの中面には、各ページに紙芝居式のイラストが描かれている。土壌づくりから田植え、稲刈りを経てお米から籾殻が分かれ、それぞれがノートと社員食堂につながり、最後は一人ひとりが「P+ESG」を実践する。アップサイクルが表現されたストーリーとなっている。

桜井:ページをめくって使っていく楽しさを感じてほしいと、資源循環の流れをイラスト化しました。イラストはプロダクツのサステナブルサイトから引き続き、デジタルクリエイティブ事業本部の徳永さんにお願いしています。動植物の絵を使っているのは、親しみやすさはもちろん、実際に無農薬のはくほうファームに足を運んだ時に豊かな生き物が集まっていた景色を見たからです。土壌づくりの部分が多いのは、耕地の手入れの大変さを知ったからです。私自身がはくほうファームの農作業体験で、普段当たり前のように食べているお米が長い月日をかけて作られていることを学びました。このノートを手にした人にも、生産プロセスの本当の姿を少しでも感じてもらえたら、と思っています。

有機農法で育てる「はくほうファーム」の息づく多様な生き物たち

クリエイターが集まる総合制作事業会社として、社会的なメッセージとデザイン性の両立は欠かすことのできない要素だ。幅広いステークホルダーに配布する上でも、使いたくなる工夫を施さなければならない。

 

桜井:社会課題を押しつけるのではなく、ニュートラルに見ても素敵なノートに仕立てた上で、農業やアップサイクルについて理解を深められるように工夫しました。最終的には手書き風のデザインと籾殻から生まれた紙の風合いがマッチし、親しみやすくやわらかなイメージに仕上がったと感じています。

 

統合クリエイティブ事業本部 桜井 成美

 社会と経済、二つのインパクトで、資源と知見を循環させたい 

 

今後展開されるもみがらノートは、世の中に対してどのようなインパクトをもたらすのだろうか。プロジェクトチームは、“社会的インパクト”と“経済的インパクト”の二つの効果を目指してきた。

 

押本:はくほうファームを起点にサステナビリティアクションを行うことで、実際の地域課題や環境負荷低減にアプローチするのが社会的インパクト。そして仕上がったもみがらノートを循環ソリューションの実績として活用し、当社および顧客企業の持続的なビジネス成長に役立てるのが経済的インパクトです。知見の循環を通じて二つの効果が作用し合えば、より幅広い地域や企業に気づきを届けられるかもしれません。

 

岡本:自分たちで収穫したお米を食べて、余った部分でノートを作るプロセスに、今回のプロジェクトの意義を感じました。やはりサステナビリティの課題は、自分ごととして捉えることが大切。しかし日本では今のところ、企業の取り組みと生活者の受け入れにギャップがあるのも事実です。そこをわかりやすく、ワクワクするような価値を生み出しながら橋渡しをするのが、広告の役割。私たち現役世代が行動に移すことは、次世代に対する使命でもあります。今後も新たな取り組みに挑戦したいですね。

 

企業と地域、都市と農村が連携することで、循環型社会が実現していく。農作業からスタートしたもみがらノートのプロジェクトは、パートナーシップという点においても意義があったと、曽根原氏は考えている。

 

曽根原:政府は現在、1次、2次、3次産業までを一体化した『6次産業化』を推進し、農林漁業を付加価値の高い産業にすることを推進しています。もみがらノートの試みは、まさにモデルになるでしょう。この一歩は、博報堂プロダクツという都市の企業が、地域に足を運んでくれたから実現しました。私は農業従事者として、今回のモデルを他地域にも水平展開したいと考えています。お米のアップサイクルが全国的に広がれば、農業を取り巻く課題も、解決へと向かうのではないでしょうか。

 

 

【プロフィール】

曽根原 久司氏

NPO法人えがおつなげて 代表

NPO法人えがおつなげて代表理事、総務省地域力創造アドバイザー、内閣府地域活性化伝道師、内閣府休眠預金等活用審議会専門委員、山梨県立農林大学校講師・ナチュラルポップオーケストラ主宰。長野県出身、大学卒業後、フリーター、ミュージシャンを経て、経営コンサルタントの道へ。銀行などの経営指導を通して日本の未来に危機を感じ、1995年、東京から山梨の農山村地域へと移住。農林業を行いながら、“村・人・時代づくり”をコンセプトに、山梨をベースに全国にネットワークを広げている。

 

桜井 成美 デザイナー

統合クリエイティブ事業本部 クリエイティブ2部

クリエイティブプランニング第3チーム

2019年 博報堂プロダクツ入社。KV開発、パッケージ、ロゴ制作、フォトディレクション、イラスト制作など。化粧品や衛生用品、アパレル関連の企業など多数のクライアントを担当。ハートフルなアイデアを起点にしたデザインが得意です。2023年に発足した「SUSTAINABLE ENGINE」に参画。

 

三浦 奈津実 コピーライター

統合クリエイティブ事業本部 クリエイティブ1部

クリエイティブプランニング第1チーム

2018年 博報堂プロダクツ入社。生活者の日常に隠れた普遍の感情と商品・サービスとのあいだに立った、温度のあるコピーライティングが得意です。戦略の真ん中のコンセプトから考えつつ、ブランドの世界観を体現するステートメント、ネーミング、動画企画やナレーション開発、ラジオCMまで。キャラものも、好きです。2023年に発足した「SUSTAINABLE ENGINE」に参画。

 

岡本 尚樹

MDビジネス事業本部 本部長

2009年博報堂プロダクツ入社。プレミアム事業領域において、食品メーカー、自動車メーカー、通信関連企業など多数のクライアントを担当。プレミアムプロデュース領域において、製品の企画段階から調達過程まで、サプライチェーンのサスティナブル化を推進。現職に至る。

 

矢島 貴史 生産管理

K・M・J 生産管理部 第2チーム

2006年 博報堂プロダクツ中途入社。前職では印刷会社にて生産管理に従事。プロダクツではプレミアム企画営業、生産管理として、自動車、飲食チェーンなど様々なクライアントを担当、物からコト系まで幅広く対応。昨今ではSDGsを中心にしたソリューション開発など、持続可能なモノづくりを目指して活動中。

 

押本 有里子 マネジメントプランニングディレクター

広報部 サステナビリティ推進チーム

2006年 博報堂プロダクツ入社。プロモーションプランナーとして、飲料・食品を中心に、トイレタリー・自動車・不動産デベロッパー・官公庁などの幅広い業界において企画立案から実施までを担い、社会課題をテーマにした広報活動やCSR施策に携わる。 2018年 広報部に異動し、コーポレートサイト運用で得たデジタル知見とPR知見を活かして、自社のサステナビリティ推進を担当。