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近年のXRシーンを牽引してきた「メタバース」。BtoB、BtoCともにプロモーション領域でも有効なツールとして台頭してきました。
今回、「Virtual Experience Space(以下、VES)」、「META MESSE」、「インスタントフェス・オンライン」の3つのメタバースソリューションを運営視点から紐解いていくとともに、メタバースの最新トレンド、具体的なメタバース活用のポイント、アフターコロナだからこそ浮かび上がってきた未来への可能性を探ります。
【目次】
■メタバースの現状と効果をもたらす人気の取り組み
──博報堂プロダクツでは3つのメタバースソリューションを提供しています。それぞれの特徴を教えてください。
横山:「Virtual Experience Space」はゲームエンジンであるUnreal Engineを活用した美しいCG空間とオリジナルコンテンツを提供するソリューションです。リッチで没入感の高いバーチャル空間でのイベント体験が可能で、ユーザーとのコミュニケーション機能なども豊富に備えており、主にBtoC向けに、ブランドやプロダクトの世界観とともに、製品、サービスを訴求したいクライアントに適しています。
川島:「META MESSE」は誰でも簡単にバーチャル空間でイベントを開催できる“ソーシャルVRプラットフォーム”です。主にBtoB領域で、講演会やセミナーをメタバースで開催してみたい企業に向いており、短納期での制作などにも対応可能です。
福田:「インスタントフェス・オンライン」はその名の通り、ユーザー(参加者)が2D/3Dビューを自在に切り替えられる、Webブラウザ形式の即席バーチャルイベントのためのソリューションです。開催するイベントのイメージに合った空間デザインが選べて、カンファレンスやセミナー、コンテストや展示会、会社説明会やファンミーティング、ワークショップやトレーニング、ライブや演劇など、幅広く活用されています。
──アフターコロナの今、マーケティング領域でのメタバース活用はどのような局面を迎えているでしょうか。
デジタルプロモーション事業本部 クロスメディアプロデュース部
XRクリエイティブチーム チーフ デジタル プロデューサー 福田 里佳子
福田:ここ3年のメタバースブームを経て、必要性やあるべき姿の見直しが進んでいると思います。「とにかく先駆的なことをやりたい!」といった雰囲気ではなく、より確実な体験設計や集客、継続的な運用に繋がる施策が求められるようになりました。
川島:リアルとメタバースの両方を会場としてハイブリッド開催するイベントや展示会も増えています。企業はもちろん自治体などが関わるメタバースについても、使いどころが整理され始めていると思います。
横山:一般的に「メタバースはダウントレンドでは?」と評する声もありますが、3D空間やバーチャル上のコミュニケーションはエンタメだけでなくビジネスの面でも定着してきており、2030年頃には広くライフスタイルまで普及すると言われています。
さまざまな企業がメタバースの構築に取り組んでいるので次々と新たな概念も登場しつつあり、今後はVRの没入感などに留まらない価値をどう構築するか、といった点が商機を左右しそうです。
──現在のメタバース上ではどのような取り組みが人気を集めているのでしょうか。今までに好評だった取り組みなども教えてください。
福田:「IPを持っているところが強いな」ということは感じています。ゲーム機などもそうですが、ハードだけが立派でも良質なコンテンツがなければ人は集まらないように、メタバース空間でも、やはり“何をやるか”が重要です。コンテンツや物語の世界観に入り込める仕掛けには、多くのファンが動いてくれます。
川島:それまでリモート会議のような形式で実施されていた技術発表会などを、META MESSEのようなカジュアルなVR空間で実施すると盛り上がりました。プレゼンを一方的に聞くよりも3Dモデルを使えばわかりやすく見せられますし、アバターで大勢が集まると賑やかな感じが出ますね。実際に参加されていた学生に対しても、専門的分野の難しい話も企業の雰囲気を含めて楽しく伝わるようです。
福田:先日、メタバース上で社内向けに開催した社長賞の発表会も好評でした。中央のステージに、事前に3D撮影で制作した社長本人のアバターに登場してもらったのですが、登場の仕方もメタバース空間ならではの演出で話題になりました。
250名くらいの参加者が集まって、拍手でリアクションしたり、各々がアングルを変えてステージを観たり、リアルイベントとはまた違った盛り上がりがありました。
■「本当に役立つメタバース」の領域と使いどころ
──メタバースの具体的な活用についてお聞きします。メタバース上でのマーケティングやプロモーションが向いている業種やジャンルなどはあるのでしょうか。
イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース2部 部長 横山 泉
横山:大学や研究機関など、知識が集まることで新しい物事が動く場所での活用は、相性がいいと思います。建築物もVR空間で見せやすいものの一つです。「VR内見」などが普及している影響もあると思いますが、不動産系の企業からのご相談は増えていますね。また建築物やクルマはCADデータが存在するケースが多く、CG制作のコストも低く抑えられるというメリットがあります。
他にも「3Dでの可視化が効果的なもの」が、メタバース上での表現に適していると思います。以前、ヘルスケアに関わる企業から「メタバースの中で、拍動する心臓を立体モデルで見せたい」というリクエストをいただいたことがありましたが、確かに心臓の動きは2Dよりも3Dのほうがわかりやすく、インパクトも大きいですよね。
福田:「心臓の立体モデルの中を、自分が赤血球の姿になって流れていく」みたいな現実にはできない体験型の切り口での見せ方も面白そうですね。
メタバースが注目される理由の一つとしてよく“教育との相性の良さ”が挙げられます。見たり聞いたりするより、自ら体験するほうが学習定着率の向上が見られるラーニング・ピラミッドという研究結果もあります。例えば、心臓のモデルなら「触れてみて、赤血球の視点から働きを学び、他の体験者とともに心臓へ酸素を運ぶミッションをクリアしていく」といった具合に、メタバース上での共有体験と学びを掛け合わせれば、他のメディアよりも多くの情報を伝え、深い理解や行動、拡散に結び付けることができます。「知る、好きになる、行動する、共有する」といったジャーニーは、うまく活用すると新しい広告メディアの一つにもなるはずです。
川島:「わかりやすく知ってもらう」「沢山の人に見てもらう」というシンプルな目的だけなら、映像のほうが向いているケースもあるかもしれません。ですが、心臓のように実物を見せられないもの、未来の生活の体験、そして、今はまだないものを見せる・使うといった試みには、メタバースやバーチャル空間は抜群に向いていると思います。
──博報堂プロダクツだからできるメタバースのポイントや魅力を教えてください。
横山:バーチャル上では基本的に、どんなモノも表現でき、どんな体験も叶えられますが、重要なのはそれを通じて“どんな目的を完遂するか”です。
本当にメタバースでやるべきなのか?映像やWebで充分なのか?実はリアルのほうが効果的なのか?など、さまざまな手法や可能性を含めた検討と提案が求められますが、そこに応えられるのが、私たち総合制作事業会社の強みです。
川島:正直、VR上の演出や機能面のみを見れば、メタバースを専門にしている企業のほうが得意な部分はあるかもしれません。ただ、コストや着地点に合わせてメタバースを活用した全体のプランニングを請け負えるという点には自信があります。複数のソリューションがあるので、社内連携にも強みがあります。
福田:冒頭でも触れた通り、どんなに立派な機能や空間だけ用意しても、より多くのターゲットへリーチさせる集客施策や、参加者を飽きさせない体験設計、効果的に運用していくためのデータがなければメタバースの価値は発揮されませんし、良くて「楽しかったね」、最悪のケースは「よくわからなかったね」で終わってしまいます。
きちんと集客できるか、UI/UXは使いやすく離脱されにくい設計か、コンテンツは充実しているか、リアルとうまく連動できているか、イベント開催中にリアルタイムでフォローできるか、ユーザーの反応をいかに可視化し取得していくかといったポイントをクリアした上で課題やアクションに繋げ、取得した行動分析データや属性データも含めて次に生かせるかが重要です。全体をシームレスに、プランニングから実施運用まで関われることは、他社と大いに差別化できる点だと思います。
横山:そもそも私たちが空間設計を生業にしてきたという点も、メタバースを構築する上では有利なポイントです。ユーザーのアクションが平面かつ能動的な通常のWebサイトと違って、メタバース上ではイベントや店舗設計のような導線や空間活用を視野に入れたデザインセンスが必要です。
そこを押さえた上で、何もないところから何かが飛び出すとか、モノの形や大きさが変わるとか、CGならではの非物理的なクリエイティブをどう表現するかを考えなくてはなりません。
福田:あまり発想が飛躍しすぎると、実装してもユーザーが付いていけなかったりもするので、空間を創るクリエイターの力量が問われる部分ですね。
横山:その通りだと思います。デジタルでできる表現の面白さを生かしながら、それをユーザーにきちんと体験してもらうにはどうするか、ということも合わせて考える必要がある。メタバースをそういった空間として捉える力も、プランニングのキモになってくると思います。
■リアルを含めた”体験の拡張”で社会に幸せをつくる
──今後メタバースの可能性はどのように広がっていくでしょうか。
福田:そうですね。メタバースとUGC(ユーザー生成コンテンツ)やクリエイターエコノミー(主にクリエイター個人の創作活動や情報発信によって構成されるWeb上の経済圏)の結びつきには関心があります。例えば、メタバースの中でのモノづくりやコミュニケーションなど、メタバースとユーザーとの繋がりはもっと多種多様に、自由度も上がっていくことで、価値を広げていくでしょう。
人気ゲームのプレイ動画の配信などもその一つかもしれませんが、ユーザー自身がどんどんコンテンツを創れるようになれば、バーチャルはtoCのライフスタイルにさらに浸透するはずです。
イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース1部 川島 尚也
川島:以前からメタバースとNFTの組み合わせは面白いなと思っています。NFTチケットを持つ人だけが特別なメタバース空間に入ることができるといったイベントの例がありますが、仮想空間上での新たな価値に通じると感じました。
メタバースやXRによるコンテンツと観光施策を連動させる自治体や、町おこしにNFTを発行する自治体なども増えています。組み合わせることでさらなる地域貢献に繋げられるでしょうし、投機的な意味でもさらにエンパワーメントできそうです。
横山:「メタバース上では、今はまだないものを見せられる」という話をしましたが、AIやデジタルツインを組み込んだメタバースを実現すれば、可能性はさらに広がると考えています。
IoTを活用して取得した現実空間の情報を、仮想空間内で双子のように再現するデジタルツインは流通のモニタリングやシミュレーションなどに活用されていますが、メタバース上に組み込まれることで、テストマーケティングや店舗設計のシミュレーションなどはもちろん、さらに精緻な試みなどが可能になるはずです。
プロモーション領域からはちょっと離れますが、例えば特定の専門知識を学んだAIとの触れ合いを日常化することで、ユーザーの行動や認知のエラーを早期に発見して健康上のトラブルを防ぐといったことも可能になるかもしれません。
仮想空間上での複数人でのコラボレーションやシミュレーションを可能にする技術もすでに実現していて、今後はより身近になるでしょう。具体的には、メタバース上の店舗でお客さまが営業と直接相談しながらクルマをカスタムして、AIで分析した運転のくせや設計・工場の意見をフィードバックして、完成品のモデルをリアルタイムでお見せする。そのように、ベストな選択のためのデジタルツインの活用は増えると思います。
──最後に一言ずつ、目標や意気込みを聞かせてください。
福田:メタバースに関わってから再発見したことの一つに、“リアルの良さ”があります。ちょっと大げさかもしれませんが、VR空間で長時間過ごしたあと、ゴーグルを外してパッと窓の外の風景を見たりすると「あ、リアルって美しいな。解像度、高いな」と思うんですよね。
翻せば、メタバースでの過ごし方や表現にもまだまだ技術的な制約もあります。私はリアルと同じくらいデジタルやロボットなども大好きなので、メタバースとリアル世界、その他のテックについても、どれが優秀でどれがそうでないということではなく、うまく共存できる世の中を創りたいと思っています。
川島:多くの方が、目に見えて分かりやすいリアルを体験軸とした思考で物事を考えがちなのですが、シンプルな部分でのリアルとメタバースとの結びつきにも、まだまだ可能性があると思っています。
表現や売り方一つでも、つぶさに観察していくとニーズがいくつも眠っていたりするので、メタバースでやってみたいことがあれば、ぜひ何でもご相談ください。私たちもよりアンテナを張って、領域を拡大していきたいと思っています。
横山:“体験の拡張”をビジョンの一つとして、今後も積極的にメタバースを含む可能性に取り組んで行きます。そのために「メタバースだけ」「リアルだけ」で完結するのではなく、二つをどう結び、デジタルツインのような概念や技術を含めて人々の生活に役立てていくかを常に考えています。
バーチャル空間やコンテンツをただリッチ化するのではなく、新しい体験を通じて自分や周りの生活が楽しくなるように、メタバースを取り巻くシーンにおいても、ライフクオリティ・ライフスタイルについての提案を増やして、私たちにできるモノづくりを続けていきたいですね。
プロフィール(左から)
川島 尚也
イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース1部
自動車/飲料/通信など、アクティベーション領域を中心としたプランニングから制作実施まで幅広く担当。
リアル・デジタルといった手法にとらわれず、ブランドコミュニケーションや生活者体験の最適化を得意とする。
メタバースやNFTなど拡張性の高いコンテンツ開発にも従事。
福田 里佳子
デジタルプロモーション事業本部 クロスメディアプロデュース部
XRクリエイティブチーム チーフ デジタル プロデューサー
エンジニアとしてキャリアをスタートし、2015年より博報堂プロダクツ デジタル領域のプロデューサーとして、AR(Augmented Reality) / VR(Virtual Reality) / MR (Mixed Reality) を活用した、体験コミュニケーションのプロデュースを多数行う。
横山 泉
イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース2部 部長
オンライン・オフライン問わず「体験」を切り口にしたアクティベーションをトータルでプロデュース。
プランニングから制作管理、施工管理、ステージ演出、運営まで総合的に対応。
最近では、SDGsプロジェクトのリーダーとして現代に適したものづくりと体験設計を行なっている。