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博報堂プロダクツでは、2023年を「サステナブル元年」と位置づけ、社会の持続的な成長に貢献するためのサステナビリティ活動の取り組みを進めています。新たにはじまる連載企画「P+ESG ACTION interview」では、サステナブルな社会づくりに貢献する、「P+ESG」の考え方に基づく社員一人ひとりの行動や取り組みについてご紹介していきます。
第1回目では、「P+ESG」から「S(Society):誰もがいきいきと働ける社会へ」につながる、障がい者採用サイトリニューアルのプロジェクトと制作の舞台裏についてご紹介します。博報堂プロダクツのサステナビリティ活動を加速させる「P+ESG ACTION」にご注目ください。
<目次>
「できるかできないか」ではなく、「何をやりたいか」
――今回の障がい者採用サイトリニューアルのプロジェクトに関わった皆さんは、これまでどのようなお仕事をされていたのですか。
江口:前職では文化施設の運営管理や紙製品の商品開発など、デザイン寄りの仕事をしてきました。しかし、自分が本当にやりたいことは働く環境を整えることだと思うようになり、人事職に転職しました。2020年3月に入社してからは、人事室労務部に所属し、人事の異動に伴う手続きの対応や障がい者採用、人事の基幹システムに関する業務などマネジメントプランニング全般を担当しています。
平原:2019年に新卒で入社し、統合クリエイティブ事業本部でコピーライターとして化粧品/ファッション/金融など幅広い分野を担当しています。以前新卒採用サイトのコピーを担当していたこともあり、今回参加させていただきました。
山中:同じく統合クリエイティブ事業本部でデザイナーをしている山中です。美術大学を卒業後、2017年に入社しパッケージデザインやイラスト、キャラクター開発などをしています。2021年からUI/UXユニットに所属してWEBサイトの企画から制作までを担当するようになり、今回のプロジェクトにもお声がけいただきました。
人事室 労務部 江口 華英
――障がい者採用サイトのリニューアルが必要と感じた理由やそのきっかけは何ですか?
江口:私自身が障がい者採用で入社して、今年で4年目になります。私の入社時、障がい者採用担当は部長を入れて4人でしたが、現在は6人に増員してそのうち3人が障がいを持った社員です。自分たちのこれまでの経験から応募する側と採用する側の間でミスマッチを感じることがありました。
――例えば、どのようなミスマッチでしょう。
江口:以前の障がい者採用のサイトでも「すきなことをする」というメッセージが書かれていたのですが、博報堂プロダクツとしてどのような人を求めているのか応募者に伝わりにくい印象がありました。社員の一人ひとりがどのように働いていて、入社後にどのようなフォローが受けられる環境なのかといった情報があれば、私たちが求めているものがもっと伝わりやすくなると思いました。会社としてサステナブルな社会づくりに貢献する「P+ESG」の取り組みが始まるなど、こうした課題を改善するタイミングが訪れたので、平原さんと山中さんに相談した流れです。
――その依頼を受けて、平原さんと山中さんは最初何を感じられましたか?
平原:江口さんから依頼をいただいた時に最初に考えたのは、「障がい者採用サイトって本当に必要なのだろうか?」ということです。障がい者採用をしていることを声高に主張すること自体がいいことなのか悩みましたし、当事者にとってもどのように扱われるのが嬉しいのか、新卒採用のサイトと分ける必要はあるのかなど多くの疑問が湧いてきました。
山中:私も最初に話をいただいた時は「障がい者採用サイト」ということで、正直身構えてしまったところがあります。ですが、障がい者採用で入社された江口さんから直接その想いを聞いていくうちに、自分がデザイナーとして何をしていかなければならないかが次第に見えてきました。
統合クリエイティブ事業本部 日髙チーム 山中 幸代
――平原さんはサイトリニューアルのコンセプトをどのように整理していきましたか?
平原:障がい者採用サイトをリニューアルするのであれば、それまでのメッセージでは伝わりにくかったことは何なのか、またどのようなメッセージにするのがよいかを考えました。そこで意識するようになったのは、「平等」と「公平」の違いです。
私の理解では、平等は同じものを与えることで、公平はチャンスを同じにすることです。例えば、背の高さは人それぞれ違いますが、高い塀の向こう側を見るために同じ高さの台を渡すのが「平等」で、皆が同じ光景を見えるように台の高さを変えるのが「公平」だという説明を読んだことがあります。
今回のリニューアルであれば、以前は「すきなことをする」というスタートラインの平等は書かれていましたが、それを実現するために何をするのが公平なのかという説明やメッセージが足りていないことに気づきました。
――何を足すことですきなことを続けられるようになると考えましたか。
平原:すきなことを仕事にするということを考えたとき、人によって自分はその仕事ができるのだろうか、ちゃんと働き続けられるのだろうかといったハードルを感じてしまい、仕事選びでも「できること」を探して妥協してしまうのではないでしょうか。
もっと大切なのは、自分が今できるかできないかではなく、「これが好き」や「これがしたい」といった自分の気持ちに素直にいられるかどうかだと思います。それができているからこそ無理なく働き続けられますし、誰もが生き生きと働ける社会の実現にもつながっていくのではないかとイメージしています。
統合クリエイティブ事業本部 梅澤チーム 平原 千文美
仲間を知り、共に挑戦すること
――サイトリニューアルで目指したものを、実際の制作でどのように反映していきましたか?
平原:江口さんから、障がい者採用を含めて博報堂プロダクツの採用の基本的な考え方をお聞きしました。それは、その人が「何ができるか」よりも「何をしたいか」を持っていること。その想いを伝えるためのキャッチコピーを練って、最終的に3案の候補を提出しました。
採用されたのが、サイトのトップにある「すきにすなおにすすもう。」というコピーです。このコピーには「できるかできないかを悩むよりも、やりたいかどうかで未来を選んでほしい。」というメッセージを込めました。社長からもこの文章を読んで「そうだよ、僕たちが伝えたかったことは」とコメントをいただきました。
江口:人事室内で好評だったのはもちろんですが、私自身が常日頃から感じていたモヤモヤした気持ちを、平原さんにはっきりと言葉にしてもらえて本当に感動しました。「すき」なことを仕事にしているということは、自分の気持ちに素直に自分らしくいられるということですし、私たちの会社はその「すき」を支えるための環境を整えていることが応募者の人たちにも伝わると感じています。
――キャッチコピーの力強さも印象的ですが、サイト全体の雰囲気も従来の障がい者採用サイトとは大きく趣を異にしていると感じました。
山中:サイト全体のデザインは、障がい者採用サイトにありがちな「真面目さ」や「ほんわかしたイメージ」を前面に出したものではなく、それぞれの分野のプロフェッショナルと一緒に挑戦する強い気持ちを表現できるよう目指しました。
また、WEBアクセシビリティの視点を考慮した配色や文字をセレクトして、わかりやすく伝える工夫もしています。誰のためのアクセシビリティなのか? と考えると、それは障がい者のためだけではなく「誰にとっても」見やすくわかりやすいサイトが必要なことに気づきます。
そして、今回のリニューアルでは見た目のデザインだけでなく、社内の皆さんにきちんと読んでもらえるコンテンツにしていく必要があると思い、コンテンツもこれまでより大幅に増やしています。例えば、「働く仲間」という社員紹介のコンテンツでは、障がい者採用で入社した社員へのアンケートやインタビューを通じて、これから一緒に働く仲間の人物像がわかるようにしました。
――「働く仲間」では一人ひとりに似顔絵のイラストとキャリアに対する考え方などが詳しく書かれていますね。
山中:顔写真ではなく似顔絵にしたのは、より本音を話してもらいたいという狙いがあったからです。また、障がい者採用で入社した社員同士の「座談会」を新たに追加したことで、リニューアル前では想像しにくかった入社後のキャリアプランがイメージしやすくなっています。ほかにも、各事業本部の業務内容を紹介する「仕事概要」も充実させ、博報堂プロダクツでどのように自分の「すき」を発揮できるか探しやすくなっています。
江口:一人ひとりの人物像にフォーカスしていただいたことで、博報堂プロダクツで働く仲間のことをよく知ってもらえるようになったと嬉しく感じています。また、選考のプロセスについても「選考について、採用実績」としてオープンにしたことで、安心して応募できる環境が整いました。
――障がいのことをもっとよく理解してもらうことで、社員の働き方にも何か良い影響はありましたか。
江口:障がい者採用は雇い入れたことがゴールではなく、スタートなので、人事としても働きやすい環境を作るためのフォローアップが欠かせません。人それぞれに個性があるように、障がいの種類によって配慮が必要なポイントが異なります。バリアフリーのような設備の話もあれば、在宅勤務のような働き方の話もあります。
身近な例で言えば、上肢に障がいがあるとホワイトボードのペンのキャップが取りにくいといった問題がありました。そこで、チーム内で別の方法はないかと話し合ったところ、キャップを取らなくてもいいノック式のペンが便利だということがわかってきたんですね。面白いのは、それから皆さんノック式のペンを好んで使い始めるようになったのです。こうしたちょっとしたコミュニケーションから、誰にとっても便利なユニバーサルデザインの重要性に気づくこともあるんですね。
――デジタル技術を用いた取り組みもありますか?
江口:これはかなり前から行なっている取り組みですが、聴覚障がいのある社員には、音声の文字起こしのアプリを導入しています。入社後にどのようなフォローアップが必要になるかは実際にその時になってみないとわからないこともあります。しかし、お互いの違いを認め、誰もがいきいきと働くための制度や研修などの取り組みを普段から続けていますので、障がい者を受け入れる側の身構えも解いていくことにつながっています。
私の「P+ESG ACTION」
――皆さんにとって素直に「すき」と言える仕事は何ですか?
平原:「言葉にする」ことで、誰かを助けることだと思います。コピーライターを目指したのは、言葉を使って企業の課題解決をしたかったから。入社してからは先輩たちに多くのことを学びましたが、そのひとつに「コピーにはサービス精神が大事」という教えがあります。今回、江口さんたちとのやり取りの中でいろいろな人に想いを馳せ、言葉の持つ力や、言葉で人を助けるサービスを作っていくことが自分にとっての「すき」なのだと改めて気付かされました。
山中:私にとっての「すき」は昔から絵を描くことで、プライベートでも友人の結婚式のプレゼントにイラストを描いたりしています。突き詰めて考えれば、誰かを笑顔にすることが好きなのでこの仕事を続けているのだと思います。今回のプロジェクトでは自分の狭い思い込みではなく当事者の皆さんの生の声を聞けたことが大きな成果だと感じています。
江口:これまでの自分の仕事を振り返ると、ちょっとした工夫や整理で物事がよくなり、新たな側面を発見できることが「すき」なのだと思います。これは、職場のチームや働き方についても同じことが言えて、誰もが働きやすい環境づくりや部署の垣根を超えた連携によって仕事をスムーズにしていくことが私にとって好きな仕事です。
――サステナブルな社会の実現に向けて取り組まれていることや考えていることはありますか。
平原:今回のプロジェクトを通じて、これからの仕事でもさまざまな立場の人をイメージして喜ばれるサービスを作っていきたいです。もっとお互いが想像力を働かせて、少しずつやさしくなれば、より良い社会に向かっていくと思っています。
山中:これまで学校や仕事で学んできたデザインで誰かを幸せにするには、自分自身の視野をもっと広げることが大切だと思っています。これは仕事ではありませんが、地域との関りとして、外来植物から生活環境を守るための署名活動など環境問題にも興味を持って行動しています。
江口:プライベートでは器の金継ぎや落語を聞くのが趣味なのですが、これも古くから受け継がれてきたものに新たな価値を見出して未来につなげていくという点で仕事との共通性を感じています。
【プロフィール】
江口 華英
人事室 労務部
2020年 博報堂プロダクツ入社。
入社・異動関連業務、組織改編業務、障がい者採用を担当。現在は人事基幹システムのリプレイスを担当し、他部門との連携や、人事として持つべき情報の整理から、既存申請の内容を変更するなど、改修業務にも携わっている。
山中幸代 デザイナー
統合クリエイティブ事業本部 日髙チーム
2017年 博報堂プロダクツ新卒入社。
キービジュアル開発、パッケージ、イラスト、キャラクター開発などを担当。2021〜2022年にUIUXユニットに所属し、WEBサイトの企画から制作までを実施。
平原 千文美 コピーライター
統合クリエイティブ事業本部 梅澤チーム
2019年 博報堂プロダクツ新卒入社。
化粧品/食品/ファッション/金融/IT/など幅広い業種を担当。言葉を起点にしたアイディアで、ブランド・商品の根幹から最終的なアウトプットに至るまでトータルに手掛ける。