脱炭素社会の実現に向けて企業の環境マネジメントが今まで以上に重視される中、博報堂プロダクツは2023年10月、プレミアム事業本部およびイベント・スペースプロモーション事業本部において、環境マネジメントシステムの国際規格「ISO14001」認証を取得しました。企業理念で掲げる「こしらえる」ことを生業とする企業として、環境に関する法令遵守や環境負荷低減に努めるとともに、ビジネス成長へつなげることを目指しています。環境配慮とビジネスをいかに結合させたのか、ISO14001取得を主導したメンバーに話を聞きました。
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後編となる今回は、最先端のイベントテクノロジーを駆使してリアル・デジタル両方の体験演出・運営、及び空間デザインまでを担うイベント・スペースプロモーション事業本部(以下、「ESP事業本部」)においてISO14001取得をリードした横山泉、川村正樹、ボンド雅ミシェルと、認証取得をバックオフィス側からサポートした総務の金澤快児に話を聞きました。
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目次:
―つくる、捨てるが発生するイベント領域を、オフィス環境から変える
―30のチェック項目を設けた独自のサステナブルアクションを策定
つくる、捨てるが発生するイベント領域を、オフィス環境から変える
――ISO14001(以下、ISO)を取得することなった理由を教えてください。
横山: 2022年にESP事業本部として事業拡張をしていこうと決定したカテゴリのひとつにSDGs領域もあり、部内プロジェクトチームメンバーを中心に、環境問題に対してビジネスアクションを起こせるのではないかと考え、取得のチャレンジに手を挙げました。私たちの事業領域であるイベント制作は、これまではつくっては捨てるというスタイルになってしまうものが多かったため、何かできることがあるのではないか?と感じていたところがありました。空間や体験の設計を担う部門だからこそ、まず自分たちから変えていきたいと考えました。
川村:以前から官公庁の業務では環境を配慮した提案が求められていましたが、一般企業に関しては、外資系企業を中心に今年になってから環境配慮の方針を立てるクライアントがぐっと増えてきました。一方、まだ動きがない企業もあるため、私たちから提案していく必要性を感じています。そういった意味でも今回の取得は意義があるものだと感じました。
――認証を取得するにあたっては実施計画立案が必要ですが、どのように立案したのでしょうか。
ボンド:自分たちのオフィス環境における取り組みと、業務における取り組みとの2軸を立案していきました。オフィス環境における取り組みについては、まず自分たちの事業本部の働き方に目を向けることで環境について考えるきっかけにしたいと考えました。ごみの分別はどうなっているか、資源削減の余地はあるのかなど、金澤さんら総務部の方々の力も借りて基本的なところから掘り起こし、どう変えていけるのかを検討していきました。
金澤:ESP事業本部から、ごみの分別はどこまでできるのか、コピー用紙はどのくらい消費しているのかといった問い合わせを受け、ビルの管理会社や社内の情報システム部門に連絡をとり、情報を収集しました。特にごみ分別に関してはビル独自のルールと区のルールがそれぞれ違う部分もあるので、何ができて、何ができないのか。何かを実施することで新たな環境負荷は生まれないかなどを丁寧に精査する必要があり、現在もよりベストな形を模索しているところです。
川村:様々な検討を踏まえ、まずは「再生利用可能なごみの分別の徹底」という項目を立てて推進することにしましたが、ごみ捨て場は他部署とも共通であったり、自治体のルールなども関係してくるため、ただ細かく分別すればいいわけではなく、何が効果的かを考えるきっかけになりました。
30のチェック項目を設けた独自のサステナブルアクションを策定
――自分たちの働く環境を改善したことは、ビジネスにどのような影響をもたらしたのでしょうか。
横山:イベントや空間設計においても、オフィス改装と同様で、サステナブルな対応を完璧に遂行しようと思うと、「時間もお金もリソースも足りない」という課題に直面してしまいます。そこで、まずは現状把握をした上で、取り組むべき効果的なアクションを議論していく必要性があります。そこで、環境負荷の軽減はもちろん、社会や経済にもやさしい具体的なアクションに対して目的達成と効果のバランスに配慮したイベントを計画、実行でき、リサイクル率やCO2削減を可視化し、イベントの最適化が図れるようなチェックポイントを設けた「サステナブル アクション」を作成しました。
――チェックポイントの項目にはどのようなものがあるのでしょうか。
横山:企画・実施設計や会場の選定・調達などの事前にできる取り組みから、空間デザイン/設計/施工、テクニカル機材・演出、運営計画といった、現場で対応すべき内容を、大きく5カテゴリから30個に細分化しています。資料のペーパレス化、環境に配慮された会場の選定、環境負荷が少ない再生素材やリサイクル製品、マテリアル・建材等の積極的な活用、省エネ効果の高い機材を選定など多角的かつ具体的に検証することができます。
――このようなイベントの実施を推進していくために、今はどのような取り組みをしているのでしょうか。
川村:まず自分たちが環境に配慮したアクションをできていなければクライアントにもしっかりと提案できないと考え、まずは使い勝手のよいツール開発したり、地域への貢献活動を通じて実践すべく動いているところです。そうすることでモチベーションが上がり、自らクライアントにも提案していきたい、というマインドを育てていけたらと思っています。また、普段の業務においてもペーパレス化をすすめるなど、日々できることを積み重ねています。
効果を可視化することで、第一歩を踏み出す後押しに
――ISO取得により、今後どのようなビジネスアクション、ビジネス成長が見込まれそうでしょうか。
横山:自社の生み出すプロダクトやサービスにおける環境配慮を実施する企業が増えている一方、実施するイベントにまで配慮が及んでいる企業はまだ多いとは言えません。だからこそ、先ほど紹介したような環境に配慮したイベント制作の仕組みを積極的に活用し、どんな効果につながるのかわかりやすく提示することで、クライアントが第一歩を踏み出す支援につなげています。
ボンド:私たちと一緒にISOを取得したプレミアム事業本部(詳しくは前編)は環境に配慮したプロダクト開発、情報発信ともに積極的に行っているので、自分たちの提案にも盛り込み連携していきたいです。また、何からはじめればよいか第一歩を踏み出したい方も、現状の環境コストを投資に変えてビジネス成長したい方に対しても、「SUSTAINABLE ENGINE」では、統合的なビジネスアクションを生み出していけると思います。
――このような環境配慮型のビジネス成長を加速させるために必要な視点は何ですか。
ボンド:やはり「可視化」が必要です。環境配慮型のイベントを行うことがクライアントにとってどのような企業価値につながるのか、そして来場者にとっていかに魅力的なのか、どちらも「可視化」してわかりやすく伝えることは欠かせません。そのときには、環境配慮やサステナブルの押し売りのようにはならぬようにすることも大切だと思っています。
横山:効果の可視化という観点の中には、ESG評価に量的にヒットするという視点だけではなく、それが「生活者の体験価値としての心地よさや楽しさ」にもつながるような質的な視点も織り込んで、人の心を動かす価値提供をしていくことがポイントであると考えています。体験を通じていかにブランドと人がつながるリアルな接点を構築するかということが私たちのミッションです。
川村:独自性の追求と同時に、イベント業界全体で取り組む必要性も感じています。弊社を含むイベントプロデュース5社で「サステナブルイベント協議会」を発足し、イベント業界におけるサステナビリティ推進と、業界全体のリテラシー向上のために活動も始めました。業界のヨコのつながりから底上げを図り、より大きなインパクトを創出することが、我々のビジネス成長にもつながると考えています。
ISO取得後も、走り続け、進化していく
――今回のプロジェクトに関わったことで、自身の意識や行動に変化は生まれましたか。
ボンド:「捨て方」と「買い方」に大きな変化が生まれました。業務では、施工会社さんに「今回のイベントで使ったモノは、その後どうなるの?」など逐一聞くようになりましたし、日常においては、服を購入する際には、原料調達の状況や生産環境、破棄の状況などがわかるアプリを活用するようになりました。
川村:私がこのプロジェクトに参加することになったことがきっかけで、家族とごみ拾いイベントに参加するなど、共感によって輪が広がることを実感しています。さまざまな環境系のボランティア団体などとの接点が増えるにつれ、彼らの事業モデルやモチベーションをもっと知りたいと思うようになってきました。彼らとコミュニケーションを深めつつ、ネットワークをつくっていけたらいいなと思っています。
金澤:ごみ分別や産業廃棄物の処理方法 を再考する際にも、テナントとして入居するビルのルールや処理をしてもらう委託先施設の スペックなどに左右される場合も多いと感じました。そのため、職場環境をどうしていくかを考えるときにコスト管理も大事だけれども、環境配慮への価値の軸も同時に持って物事を判断していくことも企業として大事だと感じています。また、今後は認証取得や多様な 環境基準のクリアが受注する条件になってくる仕事も増えてくるのではないかと予想します。その際に、環境系に限らず世の中に必要な条件をクリアできていて、現場の方が安心して業務に打ち込めるような環境づくりをしていけたらと考えています。
――今後のビジョンや挑戦したいことを教えてください。
ボンド:イベント実施だけでなく、実施後の破棄やリサイクルのことまで考えたプロセスを構築して、我慢ではなく「よりよい選択」と思ってもらえるようなイベントを提案していきたいと考えています。また、イベントを単発ではなく長期的視野で捉えて、提案していくことが必要だと思っています。このような環境系の取り組みはすぐに結果が出るものばかりではないからこそ、やり続け、走り続けていくべきだと考えています。
川村:多くの企業が製品やサービスで環境に配慮すべく努力しているのと同じように、私たちもイベントというひとつのソリューションを環境配慮型に磨き上げ、よりよい方向に変えていくという進化を続けていきたいと思います。環境配慮を含め、世の中に貢献していくことで、ものづくりという軸だけでなく、あらゆる面で働きたくなる環境を備えた企業になっていけたらいいなと思います。
横山:走り出したばかりではありますが、日々、意識が高まった仲間が増えてきていることも実感しています。同じ熱量を持って望める環境が広がるほどに可能性や対策も増えていくので、その流れを加速させたいです。イベント事業がブランドの成長につながることはもちろん、それが環境や社会にいい影響を与えられることこそ、私たちのミッションであることは変わらないので、本質的なクオリティ向上を常に目指し、新たな協業によるソリューション開発や、サーキュラーエコノミーの機能を持つイベントサービスを実行するなど、パートナーシップを広げていきたいです。
(エピローグ)
前編、後編の2回にわたりお届けした『環境を軸にしたビジネス成長を目指す「ISO14001」認証取得とは』。プレミアム事業本部、イベント・スペースプロモーション事業本部の2事業部のそれぞれが専門性を生かしながら独自のアプローチで環境マネジメントをビジネス成長につなげる挑戦をしています。今後、社内外連携することでより立体的な環境配慮型の提案も生まれ、全社にも連携の輪が広がっていきそうです。当社の「こしらえるを、もっとサステナブルに」が推進されていく未来に、どうぞご期待ください。
【プロフィール】
横山 泉
イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース2部 部長
オンライン・オフライン問わず「体験」を切り口にしたアクティベーションをトータルでプロデュース。 プランニングから制作管理、施工管理、ステージ演出、運営まで総合的に対応。最近では、SDGsプロジェクトのリーダーとして現代に適したものづくりと体験設計を行なっている。
川村 正樹
イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース4部 部長
イベント会社、広告代理店のプランナー・プロデューサー職を経て、2014年に博報堂プロダクツに中途入社。イベントのDX、SDGs推進、オンライン・ハイブリッドなどリアルイベントの全方位に幅広く対応。現在、イベントプロデュース5社で「サステナブルイベント協議会」を発足し、イベント業界におけるサステナビリティ推進と、業界全体のリテラシー向上にも従事。
ボンド 雅 ミシェル
イベント・スペースプロモーション事業本部 プロデュース2部
2021年博報堂プロダクツ入社。アシスタントプロデューサーとして、企業と企業、企業と生活者の接点を作り上げる体験設計を企画〜制作〜運営まで対応。オランダでのサーキュラーエコノミー視察での体験を活かし、本部SDGsプロジェクト内にて顧客体験でサステナビリティを実現するソリューション設計を模索している。
金澤 快児
総務室 総務部
2009年から博報堂プロダクツ総務部に従事し、2010年入社。現在、社内オフィスレイアウト変更や、設備対応等のオフィスに関連した業務を中心に、SDGsの対応による総務領域の情報収集や、事務所関連費/部内予算の管理、その他一般的な総務/庶務領域の業務に従事。