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実店舗とECを隔てる「壁」はどこにある?真のOMOを実現するための、VMD×DX理論とは

 

 DXが浸透していく中、リアル店舗を持つ企業ではOMOを推進する動きが増えてきている。しかし業務のデジタル化にとどまり、本質的な改革ができていない企業も少なくない。こうした中、リアル店舗とECそしてデータをつないで本質的なOMOを推進するために必要なこととは何なのだろうか。本記事では株式会社博報堂プロダクツのリテールプロモーション事業本部に所属する吉田氏、西塚氏、畠山氏に、店舗改革の視点からOMO推進するために必要な考え方についてうかがった。

 

 

店頭販促をいかにDX化するか

 

──自己紹介をお願いいたします。

 

吉田:私は、博報堂プロダクツ リテールプロモーション事業本部のリテールテクノロジー部リテールテクノロジー プロデューサーです。

 リテールプロモーション事業本部は元々、店頭ツールやカタログなど、リアル店舗で展開していくアナログツールをメインとしていました。デジタル化が進む中、リテールテクノロジー部が3年ほど前に設立されました。以降、テクノロジーを使って店頭販促をDX化することで、いかに顧客満足を向上できるかをミッションとしています。一方で、流通のDX化支援によりクライアントの業務を拡大していくことも担っています。

 

西塚:私は同じくリテールプロモーション事業本部の店頭周りのクリエイティブ制作・売場設計業務を専門とするリテールクリエイティブ部で、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)プランナーとして売場作りに関する企画提案やクリエイティブディレクションを担当しています。売場に置かれる什器やPOPのデザイン、店舗設計や空間デザインなどの、平面・立体問わず売場に関するクリエイティブ全般の支援を行っています。

 

畠山:私も同じくリテールクリエイティブ部のVMDプランナーです。ポップアップストアやショップインショップなどの商空間を中心に、店頭ならではのロジックに基づくクリエイティブやVMDソリューションを提供しています。

 

 

DXやOMOを進めている「つもり」になっていないか

 

──昨今OMOが話題となっていますが、現状と課題について教えていただけますか。

 

西塚:「ECと実店舗それぞれに来店する生活者を、どのようにしてつなぐのか」これがOMOの探るべきテーマですが、現状は店内にデジタルサイネージを設置してCMやWEB動画を流し、「とりあえずDXやOMOを進めているような感覚になっている」ことが多いように思います。単純にデジタル媒体を使って情報を流すだけでは、紙のポスターを設置しているのと大して効果は変わらず、本質的なOMOとは言えない点が課題です。

 

株式会社博報堂プロダクツ リテールプロモーション事業本部 リテールクリエイティブ部
部長 西塚利広氏

 

西塚:一方OMOが進む店舗では、オンライン上の顧客がリアル店舗に来店した際のコミュニケーションの取り方を研究しています。

 しかし生活者のインサイトは、入店時・店内回遊時・棚前・レジ前・退店時などで目まぐるしく変わります。そのような場面ごとに訴求するコンテンツを出し分け、コミュニケーションを整理する必要があるのですが、最適なタイミングで最適な情報を出せている店舗と、できていない店舗に二極化している印象です。

 

──本質的なOMOを推進するには、どうしたら良いのでしょうか。

 

畠山:DXと併せて、店内におけるカスタマージャーニーの設計を行うことが重要です。

 デジタルデバイスやシステムを導入することが目的になると、手法ばかりに気をとらわれがちになります。生活者にとって有意義な買い物体験へとアップデートするためには、店内における理想のカスタマージャーニーを描いた上で、コミュニケーションをデジタルの力でどのように変えていくかという発想が大切です。サイネージの導入ひとつを取っても、「生活者の体験価値を新しくする」ところまで考え、目的を明確にしながら取り組んでいくことが重要です。

 

吉田:生活者の来店前から退店後までをトータルに考えて設計することではないでしょうか。店頭で流すコンテンツ、サイネージなどの什器、アプリやデジタルなどを違う部門で動かすことが多くなると、それぞれの思惑や事情が働き目線を合わせることが難しくなります。我々のような知見を持ったものが入り、全体を俯瞰的に見た上で、ベストな判断をして部門間での目線合わせを行ってから取り組むことが重要です。

 

 

VMDとDXを掛け合わせ、オフラインもパーソナライズする

 

──VMDとDXを掛け合わせるとは、どういうことでしょうか。

 

畠山:VMDと言えば、ショーウィンドウのディスプレイという印象が強いかもしれません。それもVMDの一部ですが、我々博報堂プロダクツが定義しているVMDはもっと領域が広く、生活者にとって「立ち寄りやすく・選びやすく・買いやすい」売場を作るためのノウハウすべてを含みます。

 VMDは店内コミュニケーションにフォーカスしたノウハウなので、元々オンラインの領域は入っていませんでした。しかし今後、生活者にとって選びやすく買いやすい買い物体験を作るためには、DXと掛け合わせて、オンラインを含めたカスタマージャーニーも踏まえることは外せないと思っています。

 

西塚:VMDだけですと「その日に来店した顧客にどうコミュニケーションするか」だけです。しかしOMOも含めて考えると「事前情報を得た上で、売場でどうコミュニケーションをするか」といったプロセスも含めていく必要があります。

 顧客の年齢・性別や特性がわかり、システムによってはオンラインでの閲覧履歴や購入履歴から、何に興味があるのかまで割り出せます。データで顧客を事前に把握し、店頭のデジタルサイネージに欲しいものを適切なタイミングで表示することで「買いたい気持ち」を後押しすることができるのです。

 

畠山:OMO化が進めば、店頭で顧客ごとに1to1のコミュニケーションができます。従来以上に顧客像を明確に細分化でき、生活者の多様なニーズに対応した訴求ができます。オフラインでもコミュニケーションのパーソナライズ化を推進すれば、より店舗や商品・ブランドに対する好意度が上がるほか、LTV向上も期待できます。

 

株式会社博報堂プロダクツ リテールプロモーション事業本部 リテールクリエイティブ部
リテールクリエイティブチーム リテールプランニングディレクター 畠山翔子氏

 

変化する購買心理に合わせた店舗設計理論とは?

 

──御社にはVMD×DXを推進する独自メソッドがあるそうですが、どのような理論なのでしょうか。

 

西塚:我々は店内コミュニケーションを5つのプレゼンテーションに整理し、変化する購買心理に合わせた最適なコミュニケーションを行っています。一般的なVMDは、下図のビジュアルプレゼンテーション、ポイントプレゼンテーション、アイテムプレゼンテーションの3つだけを指します。

 

 

変化する購買心理に合わせた5つのプレゼンテーション(クリックで拡大)

 

 

西塚:これに顧客を把握する段階である、ウェルカムプレゼンテーションという段階を設けました。タッチログインやBeaconを活用して顧客を把握する仕組みです。ウェルカムプレゼンテーションが入ることで、ポイントプレゼンテーションとアイテムプレゼンテーションの打ち手を顧客によって変えることが可能となります。

 次にアフタープレゼンテーションを追加しました。これは退店後のオンラインでのコミュニケーションです。店内で興味を持ったものや検討したけれど買わなかったもの、長時間滞在していたエリアなどのデータを活用します。

 

畠山:少々時間を置いてから、セール情報を案内したり、再来店を誘引するクーポンや特典を出したりもできます。オフラインでの出来事がオンラインに影響を与えられるOMOが完成します。最終的には、オフラインでは難しかった1to1コミュニケーションがオンオフの両方で実施できる状態になります。

 

株式会社博報堂プロダクツ リテールプロモーション事業本部 リテールテクノロジー部
リテールテクノロジープロデュースチーム リテールテクノロジープロデューサー 吉田和史氏

 

吉田:VMDの全体設計をOMO観点で実行する際、ウェルカムプレゼンテーションで取得した顧客データやアフタープレゼンテーションで得た反応はビジュアルプレゼンテーション、ポイントプレゼンテーション、アイテムプレゼンテーションと相互に作用します。出し分けや効果検証をしながら、コンテンツのPDCAを媒体・オンオフをまたいで行えるようになるのです。

 アプリ会員を獲得すると、ユニークIDで店頭補足や買い物後の追客が可能になります。まずそこから進めるのも1つの手です。

 

 

「売場診断」から顧客体験の穴を炙り出す

 

──VMD×DXはどのように進めていくのでしょうか。

 

畠山:VMD×DXの案件に限らず、博報堂プロダクツでは、まずクライアントの課題感をしっかりとヒアリングします。その上でゴールの設定を行い、全体設計に入ります。

 

 

 

 

吉田:ハードの導入やシステム設計も、最初に全体のゴールや方向性、コンテンツとコミュニケーションなどをきちんと設計しておかないと無駄が発生します。ハードから決めると、いざ実施する段階で、できないことがわかるケースが往々にしてあります。

 

西塚:またプランニングのフローの中でも特に「売場診断」が欠かせません。売場診断には独自のチェック項目を多数設けています。また、我々のチームにはVMDインストラクターの資格保有者が在籍しているので、まずは実際に対象の店舗に伺って、診断をします。

 

畠山:客観的な視点で売場を見た方が、本質的な課題の発見がしやすくなります。伺っていたお話と店舗を訪問した際の売場の状況が驚くほど違うことはよくあります。

 

西塚:大枠が把握できたら5つのプレゼンテーションに基づいて、店内レイアウトや、1to1のコミュニケーションをするためのコンテンツやコミュニケーション、グラフィックなどの細かい設定までデザインします。

 

畠山:我々リテールクリエイティブチームには、VMDを設計するプランナー、グラフィックや3Dのデザイナー、コピーライターなど店頭のクリエイティブ制作に特化したメンバーが集結しています。1人のプランナーがブレーンとなり、そこに各クリエイターが連携してアイデアを具現化するので、最後まで一貫して軸がブレません。

 

吉田:システムに関しても、弊社の強みはマルチベンダー性です。いろいろな協力会社さんと一緒に進めており、だからこそ選択肢の中から、中立な立場で最適なものを提案できます。

 

 

「VMD×DX」を浸透させたい

 

──最後に今後の展望・展開をお聞かせください。

 

西塚:VMD×DXやOMOはハードルが高いので、まずはしっかり課題を洗い出した上で小さく始めてみるのがいいと思います。こうした取り組みが増えてVMD×DXが当たり前になれば嬉しいです。

 

畠山:デジタル化に予算をかけて、施策を行っているのに効果が出ないクライアントのもどかしさをなくしていきたいです。私は、いつも1人の生活者として売場を見るように心がけています。生活者目線で良い売場がどのようなものかを常に考えつつ、VMD×DXを通じて、買い物体験をより価値のある楽しいものにしていきたいです。

 

吉田:ECが発達してオンライン上で便利に購入できてもリアル店舗での「買い物の楽しさ」は変わらず求められ、リアルの価値がさらに上がっています。だからこそ「リアル店舗の価値作り」と「ECでのより良い買い物体験」を共に作ることの重要性が増しています。

 我々は元々、店頭プロモーション領域では業界内でもかなりの知見があります。そして有力なメンバーがそろい、きちんとアウトプットできると自負しています。そこに新しいテクノロジーを加えることでシナジーが生めるのです。VMD×DXを提唱している企業はまだ少数派。やってみたいクライアントはぜひご相談いただきたいですね。

 

※MarkeZine 博報堂プロダクツのプロフェッショナルたち(PR)より転載

 

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