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注目事例 KOSUGI iHUGから学ぶ 「ものづくり起点で実現する、地域に根ざした食のサーキュラーエコノミー」とは

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2023年3月25日、川崎市総合自治会館跡地にグランドオープンした施設「KOSUGI iHUG(コスギアイハグ)」は「農・食・健康」をテーマに人と人、人と自然、人と地域をつなぎ、サステナブルな時間を紡ぐ複合型のコミュニティ・スペースです。

施設内の「卸問屋直売所コスギグリルマーケット」では、川崎市を含む全国各地の食材を取り揃え、マーケットで購入した食材をその場で調理しながら、フードロス対策にも貢献できる食体験を提供しています。さらに、発生する廃棄物を半永久的に循環させる仕組みの実装を進め、店舗運営全体でサーキュラーエコノミーの実現に取り組んでいます。

 

本記事では、卸問屋直販売コスギグリルマーケットが目指すサステナブルな飲食店舗運営について、店舗を運営する株式会社ナチュラ 代表取締役社長の河合倫伸様と、運営をプロデュースする株式会社博報堂プロダクツ プレミアム事業本部の柏原陽子にお話を聞きました。

 

 

──コスギグリルマーケットのコンセプトを教えてください。

 

河合様:川崎市内でレストラン事業を営む弊社ですが、川崎市の食の未来を考えたときに「つくるところから川崎の食に携わっていく」ことが大切であると感じています。地元である川崎市から、川崎市産とうたえる名産を広めていきたい。そんな想いから「食と農業」を基点に市のブランディングを推進したいと考えました。

 

株式会社ナチュラ 代表取締役 河合 倫伸様

 

このコンセプトにSDGsの考え方は欠かせないと考え、約1年間外食産業内でヒアリングを行いましたが当時は前例がありませんでした。そんなとき柏原さんをご紹介いただき、具体的に何を取り組んでいけるかご提案いただきました。

 

柏原:「農業と食」がコンセプトと伺った際に、これは絶対にSDGsのゴール達成に寄与できる取り組みに繋がると思いました。店舗運営時に発生する廃棄物の循環システムやリサイクル素材から作られた店内什器の導入、環境に配慮した製品の販売等をご提案しました。

 

株式会社博報堂プロダクツ プレミアム事業本部 柏原 陽子

 

──卸問屋直販売コスギグリルマーケットが導入している「サステナブルな店舗運営」とはどのようなものでしょうか。

 

柏原:一番のポイントは「店舗で発生する廃棄物の半永久的な循環」です。

 

コスギグリルマーケットでは、店内で購入した食材をグリルつきのテーブルでその場で調理することができます。

 

 

新鮮な食材をその場で調理するなかで、食品を乗せるトレーやラップ類、食べ残しがごみとなって排出されます。こうした廃棄物を新たな資源にリサイクルするため、調理後に出るごみの分別をお客様にご一緒に行っていただくようお願いしています。おしぼりやペーパータオル等の「紙のごみ」、包装トレーやビニールなどの「プラスチックごみ」、割りばしやマドラーなどの「木のごみ」、食品残渣や殻等の「食べ残し」の4種類に分類いただいています。

 

店舗内で発生するごみをすべて分別することで、コスギグリルマーケットでは99.9%を焼却処分せずリサイクルしています。食べ残し等の食物残渣は堆肥に、食品を載せるトレーは、発泡スチロールをはじめとしたプラスチック成型品として再生しています。ラップ等の廃プラスチック類は擬木となり、川崎市内の施設に寄付する予定です。

食物残渣(生ごみ)から生まれる堆肥は近隣の農家にお配りし、そこで採れた川崎市産の野菜をマーケットで販売することでリサイクルの輪を繋げています。

 

 

「リアルで見て感じる」ことで、高まる現場の推進力

 

河合様:開店当初は、お客様にごみを分別していただくことに対して理解が得られない場面もありました。ごみの分別を継続していけるか迷いが生まれたとき、店舗スタッフから「やりましょう!」と心強い声が寄せられました。

 

柏原:廃棄物の循環における取り組みは、仕組みを作り完結ではなく、継続していくことが大切です。分別コーナーの配置やお客様へのご案内フローを設計する過程で、店舗スタッフの方々と処理工場に伺い、分別の工程を見ていただきました。

 

河合様:スタッフたちはごみが分別されていく現場を目の前で見ています。「いま推進しなければ循環型社会への実現には間に合いません。続けましょう。」と自ら分別の案内をしてくれています。スタッフが心から大切だと思っているからこそ、お客様に伝えることができています。

 

店舗スタッフによる手書きのご案内看板

 

スタッフの採用面接でも「飲食店でこうした取り組みを初めて聞き、応募しました。」と、コスギグリルマーケットの理念に共感し応募してくださる方もいます。

 

──その他、運営を推進するなかで課題はありましたか。

 

河合様:コスト面の課題はありました。焼却処分に比べ、分別しリサイクルするコストの方が割高です。分別を行うためのごみ箱の配置や動線を確保する必要もあり、店舗運営の視点では、そのスペースに一席でも座席を増やした方が良いという考えとの葛藤がありました。

 

 

その他にも、分別をしていただくにはどんなご案内をしたらよいか、明確な答えがなく試行錯誤の繰り返しでした。当初はどんな商品やサービスがあるのかもわからない状況でしたが、柏原さんが「これからの時代この取り組みが重要になる」とおっしゃる姿に突き動かされました。ぶれない軸を持って進めることができたのは、自信を持ってやりましょうと言ってくれる方がいたからだと思います。

 

 

SDGsの考え方を、いかにライフスタイルに根ざしていけるか

 

河合様:私たちおもてなし産業からすると、食事の後片付けはサービスやホスピタリティの一環でもあります。私たちはお客様に分別をお願いする立場であり、ご一緒に推進する運用も責任を持って考えていかなければいけません。

 

一方で、今の子どもたちはすでに学校教育でSDGsやサステナビリティについて学んでいます。ごみの分別についてご案内すると「SDGsって知ってる!」と、子どもたちが積極的に分別してくださる姿に驚きました。ご一緒に来店されているご家族に分別方法を教える姿も見られ、食と教育が根付き始めていることを肌身で感じています。分別の取り組みを行い始めてよかったと感じた瞬間です。

 

子どもたちは学生時代に教育を受け、環境に配慮し生活する感覚を当たり前に持っています。ごみの分別を特別なことと捉えておらず、苦になりません。これは私たち世代との大きな違いだと思っています。

 

10年、20年後にはこうした社会課題への感度の高い世代が社会を作り、環境に配慮する姿勢も当たり前になっていると思います。私たちができることは、サステナブルなライフスタイルを生活に取り入れていただくきっかけをつくることです。次の世代にバトンを渡せるよう、今できることを率先して行っています。

 

──新しい前例をつくる苦労もありますが、今取り組むことで未来が大きく変わるように感じます。

博報堂プロダクツの強みを活かした「サステナブルなものづくり」という視点から取り組まれていることがあれば、詳しく教えてください。

 

柏原:その他にコスギグリルマーケットで導入している取り組みをご紹介します。

 

1つは、アップサイクル素材から生まれたカトラリーや什器の使用です。

食用に適さない古米や破砕米など、飼料としても処理されず廃棄されるお米を新たな技術でアップサイクルした「ライスレジン」の器やトレーを店内で使用いただいています。

 

 

2階の地域交流スペースでは、廃棄衣類を分解しアップサイクルしたテーブルや陶器をリサイクルした「Re-食器(り しょっき)」を導入しています。

 

 

 

Re-食器は不良品や割れてしまった陶器を回収しもう一度陶器に蘇らせた、リサイクル率の高さが特長の食器です。KOSUGI iHUGではリサイクル率50%のRe-食器を導入しており、こうしたアップサイクルによって生まれた製品に触れていただく機会も提供しています。

 

また、リサイクルコットンを使用したオリジナルトートバッグを販売しています。

 

 

このトートバッグにはCO2の削減量を新たなスコアで可視化する「デカボスコア」を付与しています。デカボスコアは商品の原料調達や生産、輸送工程で排出されるCO2が、従来の生産方法や素材に比べどのくらい削減できたのをパーセンテージで表示することにより、より直感的にわかりやすい指標で環境に配慮した商品選びをサポートしています。

 

 

できない。と諦めてしまうのではなく、自分のできるアクションから始める。

 

──サステナブルな飲食店舗運営において、大切にされていることはなんでしょうか。

 

河合様:短期的な話題化や利益など、目先のことだけを考えてしまえば、コストやオペレーションの課題にぶつかり頓挫してしまいます。10年後、20年後を見据えた今できることをコスギグリルマーケットでは行っています。

前例が少なく、手探りの状態で私たちができることは「やれることをすべてやってみる」ことです。私自らやらなければこの理念は社内に浸透しません。先陣を切って取り組む姿勢を見せることも大切にしています。

 

柏原:ぶれない理念を持ち、そこに知識や専門性を掛け合わせていくことが大切だと思います。

原価高騰など外的要因は日々変化しますが、そこで足踏みしてしまうのではなく、未来のためにいま何ができるか、1つでも見つけ実践することが継続的な行動に繋がります。

博報堂プロダクツでは具体的な商品・サービスのご提案、どの範囲まで導入できるかのプロデュースまで、クライアントにあわせて行っています。

 

──これからのコスギグリルマーケットをどんな場所にしていきたいですか。

 

柏原:環境について考える機会を創出し、街全体の感度を上げていきたいと思います。街の魅力が更に高まることで、武蔵小杉エリアにより沢山の方が訪れ、人の集まる場所にしていきたいです。

 

河合様:取り組みを継続し、外食産業の前例を作っていきたいです。循環型社会への取り組みが地域のライフスタイルに根付き、サステナブルなアクションや商品・サービスを心地よく選択できること。コスギグリルマーケットにお越しいただいた方が、そんなライフスタイルのヒントを1つでも持ち帰れる場所でありたいと思います。

 

──今後チャレンジしていきたいことを教えてください。

 

河合様:食の社会問題の解決を全国に展開していきたいと思います。

コスギグリルマーケットでは、市場で行き渡らなかった魚貝類やジビエ、地元農家の方や福祉法人で作られた野菜の販売を行っています。

 

1社では難しくても、私たちのように手を取り合うことで推進できる取り組みは多くあります。様々な人や団体と協業できれば、もっと沢山の可能性が生まれます。これからもこの街で、この場所を通じて外食産業のサステナブルな取り組みと街づくりを行っていきたいと思います。

 

10年、20年後を視野に入れたサステナブルな飲食店運営を展開するコスギグリルマーケット。

武蔵小杉エリアを拠点に、食を基点にした新たなライフスタイルが始まっています。

 

 

博報堂プロダクツでは総合制作事業会社としての強みを活かし、広告・プロモーション領域の専門性と実施力に加え、サステナブル領域の知識と実績を兼ね備えたエキスパートからなる専門プロジェクトチームを発足しました。企業課題に合わせて、パーパス構築からコミュニケーション設計・発信、具体化アクションの3つのプロセスごとに最適なソリューションを提供。サステナビリティアクションの実装化サイクルを通じて、企業のサステナビリティ目標達成を支援いたします。

 

https://www.h-products.co.jp/sustainability/engine/



 

 

【プロフィール】

 

河合 倫伸
株式会社ナチュラ 代表取締役社⻑

武蔵小杉近郊にレストラン展開による飲食事業、イタリアン酒場2店舗、和食と立ち喰い寿司、Natura Market、Tiny Natura Market -Bread & Cake、&birdを運営。その他、経営コンサルティングスポーツ業界マーケティングアライアンススポンサー提携、イベントプロデュースなどもおこなっている。

 

柏原 陽子
株式会社博報堂プロダクツ プレミアム事業本部 プロデュース部 第三チーム チームリーダー

国内、海外コンテンツビジネス企業を経て、2013年博報堂プロダクツに入社。プロダクツ入社後はオリジナルキャラクターの開発業務や、飲料メーカー、自動車メーカー、化粧品メーカー等様々なクライアントを担当。また、事業本部内のSDGsプロジェクトメンバーとして、国内外の調達ネットワークの開拓や、 ものづくりにおけるカーボンニュートラル、グリーン製造への推進に向け取り組んでいる。