エアータッチパネル技術を応用した触れない足形計測で、ぴったりの靴を探せる新しい買い物体験

ーテクシーリュクス 非接触型シューフィッティングショップ

アシックス商事株式会社

OUTLINE

コロナ禍におけるビジネスシューズのブランド認知と販路拡大に、完全非接触のシューフィッティング空間という新しい体験の場を自主提案。前例のないポップアップショップの設計・施工、オペレーションを1か月足らずで完遂することができた要因とともに、企画が誕生した経緯や、テレビ等のニュースでも取り上げられた取り組み内容、そして今後の展望について、関西支社統合プロモーション部の3人にお話をうかがいました。

INTERVIEW

“新しい日常”にふさわしい靴の売り方と新しいテクノロジーのかけ合わせ

ー2020年12月10日~21日の期間限定で実施された、非接触によるシューフィッティングができるポップアップショップについて、企画開発の経緯を振り返っていただけますか。

佐々木もともと、アシックス商事株式会社様とは、この企画が始まる数年前から、ご一緒できることについてコミュニケーションを重ねていました。その中で、本革仕様でスニーカーのような履き心地のビジネスシューズブランド「texcy luxe」(テクシーリュクス)が、商品は素晴らしいのに認知が進んでいないという課題を伺い、プロモーション提案の機会をいただきました。

長谷川それでテクシーリュクスがGORE-TEXファブリクスを採用した新商品を出すタイミングで、体験イベントを提案していたのですが……。

川野コロナ禍でイベントが開催できなくなりました。リアルな店舗に行って靴を買うことをリスクに感じるお客様も多かった中、どうやって新しい商流を考えていけばいいのか。打ち出し方をみんなで話していたのが2020年9月ぐらいだったと思います。

佐々木じつは私たち関西支社はワンフロアにあり、全チームの席が隣り合わせ。普段から異なる職種の者同士が会話しやすい環境です。あのときも川野さんがふと“最近のニューノーマルといえば非接触だよね”と言ったことを発端に、「非接触でシューフィッテイングができるポップアップショップ」という新しい企画が生まれました。

長谷川やはり今回のような、トータルな企画の発案と実現は、ひとつの部の中に全職種が揃う関西支社の強みのひとつだと思います。さらに実現にあたっては、博報堂プロダクツ独自の非接触サイネージ「エアータッチパネル(以下ATP)」の存在も大きかったですね。

川野非接触によるシューフィッテイングというものを考えた場合、どうしても必要になってくるのが非接触型のツールでした。ATPはもともと独自に開発していたもので、提供開始は2020年7月。反響は大きく、9月の段階でもメディアの取材を受けたり、多数の企業からお問い合わせをいただいたりしており、ポップアップショップに落とし込むのに適しているのではないか、という会話をしていました。

佐々木当時、ATPへのお問い合わせ数の多さから、非接触に対してのニーズが高いことを実感していました。そのせいでしょうか、後日みんなに言われて赤面したのですが、企画提案したときの私は、かなり自信満々に見えたそうです。ただ、非接触へのニーズに加えて、反響をいただいているATPを採用するという具体的なカタチも含めて、話題化も兼ねられた企画だという自負はありました。お客様が満足できるポップアップショップを提案できたので、クライアントのご担当者からも「そこまで自信を持ってご提案をいただけると、我々も新しい販売に取り組んでいく後押しになります」と言っていただきました。

オペレーションの組み立てで大切にしたのは“来店するお客様の満足感”

ーポップアップショップのデザインは、白を基調に赤を差し色にした、シンプルで清潔感ある空間。足形の計測ができるお客様が1名・オンライン接客ブース2つに入られる方が各1名ずつ・ディスプレイを見ながらお待ちいただく方が1名。お客様の定員が合計4名だったということですが、具体的な設計について教えていただけますでしょうか。

長谷川まず考えたのは、お客様が通常の店舗にテクシーリュクスを選びに来たとき、何を提供できるのかという体験導線です。そして何を得たら満足するのかを考えながら、コロナ禍ならではの非接触に置き換えていきました。満足に欠かせないのは「自分の足にぴったり」という気持ちの良い体験ですよね。たとえば、お客様の足にフィットする靴選びのための計測を、どうやったら非接触にできるのか。店舗スタッフが会話しながら靴を用意していた試し履きをどうするのか。そういった一つひとつのアクションにソリューションをあてていき、入店から購入までの一連の流れを完全非接触で組んでいったところ、基本のオペレーション構成は次の4つのステップになりました。

  1. STEP 1

    入店の際に非接触での検温と消毒

  2. STEP 2

    足形計測器でフィットする靴選びのポイントとなる足形の計測。お客様がATPを操作し、計測データはQRコードによってスマートフォンにダウンロードする

  3. STEP 3

    計測後は、オススメの靴をディスプレイしてある中からお客様自身に取っていただき、ショップ奥に設けたオンライン接客ブースで履き心地を試していただきながら説明

  4. STEP 4

    それぞれの靴のかかとに貼っておいたQRコードをスマートフォンで読み込むことでECサイトに遷移、ECサイトでの購入が可能に

佐々木非接触で足形の計測を行う方法は、頭を悩ます課題でした。当初、私たちが探してきて提案した機器があったのですが、クライアントにヒアリングを重ねていく中で、もっと適している計測器がクライアント社内にあるということが判明したのです。

川野しかし、その計測器はもともと開発向きのインターフェイスということもあり、最終的には開発会社と共同でカスタマイズすることになり、お客様がATPで操作して計測するUI・UXの部分を博報堂プロダクツでデザインしました。

常により良いカタチを模索、アップデートのすべてが知見に。

ー実際に企画が動きはじめて、苦労された点はどんなことでしたか?

長谷川実際にこの企画でいきましょうとクライアントからOKが出たのは10月末くらい。だから、オープンまで正味1か月くらいしかありませんでした。会場は東京銀座の「ZeroBase Labs GINZA 4-chome crossing」。広告の規定が厳しく、華美なデザインはNGなど、いろいろ制約があるエリアでした。

佐々木ただ、空間デザインと必要機材の問題は川野さんが、オペレーションについては長谷川さんが担当して、同時に走りだすことができたので助かりました。

川野今回とくに苦労したのは、会場が直近まで別のイベントで使用されていたため、現地での事前検証が全然できなかったことです。今までにない新しい体験を提供する場を創り上げるにあたり、本番環境で機材の微調整などに時間を使えないのは、非常事態でした。

長谷川実際にポップアップショップが始まってみたら機材同士の設置距離が近すぎて、接客時にハウリングが起きてしまい、お客様から聞きづらかったという声もあがりました。

佐々木足形計測器が想像以上に繊細ということもありました。会場に設置して計測してみたら、天井の照明の光を拾ってうまく計測できないとか。靴下がグレーじゃないとだめとか。

川野もちろん事前にテストはしていたのですが、天井の高さなど会場とは異なる空間で行ったことでは100%にはならない。そこで開催初日から微調整や運営方法のアップデートをとにかく続けていきました。

長谷川ハウリングに関してもベストな解決方法は意外とアナログで、オンライン接客を担当するスタッフさんに、接客するときの声をちょっぴり小さくするようお願いしました。最終的には人間の力でコントロールした感じです。

佐々木予測できなかったことといえば、運営中に、足元用のカメラも追加しましたよね。

長谷川はい。そもそもリアル店舗で靴販売の接客をするときには、スタッフがお客様の足元を見ながらアドバイスしたりするわけですが、ポップアップショップが始まる前までその視点の重要性に気づいていませんでした。

川野結局、小型アクションカメラを足元に設置して、オンライン接客をするスタッフから見えるようにしたところ、一気に接客しやすくなりました。オンライン接客の内容はクライアントにお任せしており、最初はバックヤードでやっていただいていたのですが、2週目くらいからは営業の方のご自宅や、本社オフィスからリモートで行う等、進化していきました。

佐々木会期中も、毎日、現場でいろいろなことをアップデートしていった感じですよね。初日のセッティングが完成形ではなく、会期が終わるまでもっといいカタチにしていこう、と。クライアントとも、常に良くしていくための会話を重ねられましたし、多分最後が一番いい感じになったと思います。

川野ポップアップショップは最終的にテレビに取り上げられたりもして、クライアントも満足してくださったようで、通常はこういうイベントのディスプレイは全部廃棄するものなのですが、本社に置きたいというご連絡をいただいたそうです。それくらい気に入っていただけて良かったです。

異なる発想や視点を自由にかけ算できるのが博報堂プロダクツ関西支社の強み。

ー今回の、完全非接触のシューフィッティング空間の開発や運営で得られた発見は何ですか?

佐々木年配のお客様や、デジタル機器の操作を苦手とされている方がいらっしゃることに関しては事前に想定していて、タブレットの画面を通してフォローしていく体制を整えていました。ただ、非接触のプライベートな空間で靴を試し履きするという新しい体験を心から楽しんでいただけるかについては、始まるまで不安の方が大きかったです。それだけに、お客様の反応・行動のすべてが勉強になりました。

長谷川リアルな靴屋さんで試し履きをする場合、多くても2足くらいのところ、今回のポップアップショップでは4足や6足と、より多く試される方がいらっしゃいました。ほかのお客様に気をつかったり、店舗スタッフに靴を持ってきてもらったりするストレスを感じず、自分の家で靴を履いて歩き回るような気分で、気軽に試し履き体験をしていただける空間の効果を実感できました。

川野再来店意向も65%と好意的に受け止めてもいただいたことも、非接触を徹底した副産物と言いますか、店舗スタッフがいないプライベート感のある空間に、高い満足度を味わっていただけた結果です。同時に、お客様は、本当はいろいろな靴を試してみたいのだ、というインサイトの発見がありました。

佐々木準備期間が1か月だったというのはネックだった部分はありますが、クライアントサイドのさまざまな方とも連携し、瞬間風速的な力を発揮できた面もあります。
社内チームにおいても、リテールの人間はどう売り上げにつなげていくかという視点で、クリエイティブの人間はクリエイティブの発想で考えるわけですが、それがうまく連携しながら、かけ算をできた事例です。

長谷川テクノロジーを駆使しながらも、最後に重要になるのは人の力だということも、改めて感じました。オンラインにおいてもちゃんと人が接客することで、安心感や信頼感、納得感を醸成できる。ハイブリッドというほど大袈裟な概念ではなくて、デジタルとアナログの配分というか、血の通ったさじ加減がプロジェクトの成否に関わります。

佐々木今回の成功も「人が心地よい」ことをテクノロジーで実現できたからだと思いますし、テクノロジーやシステム優先の発想ではなく、我々の強みであるリテールの知見に基づいた購買のカスタマージャーニーから考える大切さを感じましたね。

川野テクノロジーも結局は使っているのは人間。そして大なり小なりイレギュラーなことが必ず出てきます。それにどれだけ対応していくことができるのか。そういうところで人の力の重要性を再確認できたのではないでしょうか。すべては誰かひとりがトップに立つのでなく、その時々に一番いいものをチョイスしながら目的に向かっていけるチームワークの賜物です。

パッケージ化という次なるステップに向けての課題。

ー最後に、今後の展望について教えてください。

佐々木ポップアップショップの後、2021年11月3日~10日にかけて、「WWS Flagship Store 新宿」において、銀座より少し小規模な非接触のシューフィッティングブースをつくることができましたが、今後はこれをパッケージ化して、さまざまな方向で提案していきたいと思っています。

川野靴に限らず、身に付けるものならいろいろな可能性を考えられます。全国展開する小売店・売り場に向けてご提案することも可能ですし、ボックスカーのような移動式にするということも考えられます。

長谷川そのためにもフィッティングの後、購買行動へのつなぎ込みの部分をアップデートしたいですね。銀座に関しては話題化を優先し、あえて購買につなげる面は強めませんでした。パッケージ化にあたっては、たとえばECサイトに誘導するのか、実際その場で買ってもらうのか……など、購買導線の仕組みまで構築したいです。

佐々木購買の強化とデータの取得をセットで行えるパッケージは、これからの時代のニーズに応える一手になると思います。

川野今回の企画に関しては、本来リアルかつ接触しながらでないとできない靴の試し履きを、リアルな場所ではあるけれど非接触で、さらに話題のツールをかけ合わせることで、新しい買い物体験として生まれ変わらせることができました。こうした新しい売り場のあり方みたいなものを、一般のお客様に対してもそうですが、接客販売に課題を持つ企業に対しても示していく。おそらくコロナ禍がおさまっても、ニューノーマルは続いていくと思うので、新しい接客・靴販売について、どんどん更新しながら提案していければと思います。

プロジェクトメンバー

関西支社 統合プロモーション部 エクスペリエンスデザインチーム
チームリーダー 川野 健作

関西支社 統合プロモーション部 リテールビジネスチーム
チームリーダー 佐々木 敏行

関西支社 統合プロモーション部 エクスペリエンスデザインチーム
イベントプランナ 長谷川 大介

※所属は取材時のものです。