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人権尊重の本質を、動画表現で可視化する。 〜博報堂DYグループ 人権研修動画制作 プロジェクトストーリー~

多様なステークホルダーが関わる企業活動において、近年重要化する人権尊重。多くの企業が方針やガイドラインを策定するとともに、従業員の理解促進に取り組んでいる。一方、その内容は広範かつ複雑であることから、研修などで十分な効果が得られないケースも少なくない。

こうした中で博報堂DYホールディングスは、動画によるオンライン研修を企画。博報堂プロダクツが制作を担い、グループ従業員が真に人権を理解するためのプロジェクトに挑んだ。難解なテーマを、いかにわかりやすく伝えるか。本記事では、企画・制作を担当した4名へのインタビューを通じ、プロジェクトストーリーをお届けする。

 

写真左から、桐石 雄毅(デジタルクリエイティブ事業本部)、竹内 一峰(同左)、細野 潤一(同左)、真坂 博 さん(博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室)
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 目次 

幅広い従業員の理解を促す、オンライン研修動画という手段

膨大なヒアリングで課題を紐解き、シナリオとして立体化

受講者を置き去りにしない、ビジュアルとコピーの緻密な設計

表現の現場からつくる、人権尊重が広がる社会

 

 

 幅広い従業員の理解を促す、オンライン研修動画という手段 

労働者や生活者、地域社会など、広範な領域に影響を及ぼす企業活動。グローバル化に伴う人権侵害の深刻化を背景に、国連では2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択された。各国の企業が人権尊重への対応を強化する中で、博報堂DYホールディングスは2022年に「博報堂DYグループ人権方針」を制定。同社サステナビリティ推進室の真坂博さんは、グループの人権尊重全般に関する取り組みに従事している。

真坂:人権とは一般に、「すべての人が生まれながらにして、人間らしく尊厳を持って幸せに生きる権利」。しかし現在、さまざまな企業で人権問題が生じ、報道も増加しています。人権尊重は企業存続に関わる重要テーマといっても、もはや過言ではありません。当社グループも策定した人権方針のもとで、人権侵害の防止やモニタリングに努めています。

博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室 真坂 博 さん

博報堂DYグループの事業領域は多岐に渡り、協力機関や生活者との接点も多い。人権尊重の推進においては、従業員が担うべき責任も大きく、研修を通じた理解促進も重要になる。

真坂:人権という言葉は知っていても人権の取り組みとは具体的に何を指してどう対応すれば良いのか?をきちんと理解している人はそんなに多くないのではないかと思います。従業員、取引先、生活者などステークホルダーの人権を守るためにも、従業員一人ひとりが“自分ごと”として捉えることが必要です。また当社グループでは、広告表現にまつわる差別やプライバシー侵害、ハラスメント、過重労働などの博報堂DYグループの顕著な人権課題を特定し、「人権デュー・ディリジェンスガイドライン」をまとめました。

博報堂DYグループの顕著な人権課題

同ガイドラインをもとに、グループの人権方針や人権課題を理解して実践してもらうためにサステナビリティ推進室は博報堂DYグループの人権研修プロジェクトを始動。年に一度、グループ全社で研修を実施する上で、最適な手段は何か。真坂さんが着目したのは、研修動画のオンライン配信だった。


真坂:人権研修は「一度行えば終わり」ではありません。多忙な従業員に一人でも多く受講してもらうためにも、10分程度の動画が最適と考えました。研修における最大の目的は、受講者が人権課題を理解して日頃の業務の中で意識していくこと。方針の全文や社内体制はコーポレートサイトでも確認できるため、動画ではわかりやすく解説することを主眼に置きました。こうした意図から協力を依頼したのが、多様なコンテンツ制作のノウハウがあり、サステナビリティ領域の取り組みにも積極的だった、博報堂プロダクツでした。

 

 

 膨大なヒアリングで課題を紐解き、シナリオとして立体化 

こうして始動した、人権研修動画の制作プロジェクト。博報堂プロダクツのクリエイターを束ねるのは、デジタルクリエイティブ事業本部のプロデューサー・桐石雄毅だ。

桐石:「難しい内容をわかりやすく伝える」という真坂さんの課題に対し、一般的な研修動画の手法では不十分と考えました。ウェビナーのように講師がスライドを解説する形式では、受講者が離脱してしまったり、きちんと視聴しなかったりする可能性があります。それを防ぐためにも、わかりやすいイラストを用いたモーショングラフィックをベースに、情報量を絞る方針が最適だと考え、社内から最適な人材をアサインしました。

博報堂プロダクツ デジタルクリエイティブ事業本部 動画ビジネスプロデューサー 桐石 雄毅

構成やコピーライティングを担当したのは、細野潤一。企業の社会貢献に関する案件や複雑な内容の理解を促すことが必要な動画なども多数手掛けており、人権尊重とも親和性が高い。細野は事前の情報整理に最も時間をかけ、入念に打ち合わせを重ねながら、動画の訴求ポイントを紐解いていきました。

細野:50ページものガイドラインを要約し、全体像をインプットすることから始めました。企業において人権は、「守ろう」ではなく「守るのが前提」。このように微妙なニュアンスが、認識のズレにつながります。まずはチームメンバーで目線を共有しなければ、具体的な表現も崩れてしまう。そう考え、初期段階では真坂さんに細かく質問し、オリエン内容のダイジェスト資料を改めて作成しました。

博報堂プロダクツ デジタルクリエイティブ事業本部 プランナー/コピーライター 細野 潤一

真坂:細野さんが作ってくれた資料は、人権研修で伝えたかったことを分かりやすい内容にした“翻訳文書”。誰でもわかるようポイントが抽出され、皆がアウトプットをイメージできるものです。重要課題や適応範囲、専門用語の意味など、次々と質問する制作チームの姿勢に信頼感を抱きました。本プロジェクトのカギは、このプロセスにあったと感じます。

 

細野:作成したダイジェスト資料を土台に、動画シナリオを練っていきました。構成は、人権全般、グループの取り組み、9つの重要課題の三本柱。全体像の把握から業務での実践へと進めるように、流れを意識しました。



 受講者を置き去りにしない、ビジュアルとコピーの緻密な設計 

イラスト作成や編集など、ビジュアル面でのディレクションを担ったのは、アートディレクターでありモーションデザイナーの竹内一峰。細野が作る構成を視覚的に伝えることが、最大のミッションとなる。

竹内:私自身、一般的な研修動画を見るのが苦手なタイプ。誰もがわかるコンテンツに向き合いたいと、プロジェクトに参加しました。心掛けたのは、“見やすい”“わかりやすい”“飽きない”の3点。広告ではない本件には、インパクトやエンタメ性は不要です。堅苦しさを解消し、親しみやすいテイストにしつつ、軽率な雰囲気には陥らないよう、両者のバランスを考慮しました。

博報堂プロダクツ デジタルクリエイティブ事業本部 アートディレクター/モーションデザイナー 竹内 一峰

人権課題には、児童労働や性差別など、シリアスな内容も含まれる。竹内は写真を使用せず、イラストと図版だけで構成することで、動画全体を柔らかなトーンで一貫させた。また文字情報を最低限に抑え、ビジュアルを多用することで、感覚的に内容を理解できる動画を目指したという。

 

竹内:例えば9つの重要課題は、イラストだけで全体像を掴めるようにしています。ビジュアルをナレーションで解説し、カバーできない事項はテキストで補足する。受講者が混乱せずに情報の強弱を整理できるよう、「抽象→具体」「本論→各論」と目線が動くようにしました。

 

人権研修動画内キャプチャ「博報堂DYグループ顕著な人権課題」

 

桐石:動画の中での目線の誘導は、飽きさせないためにも大切です。「人権方針の適用範囲」では、図版が拡大するモーションが加わるなど、細かな演出が施されています。また「人権尊重に対するコミットメント」のように、文章でしか表現できない画面では、ナレーションとともにアンダーラインが遷移します。意識されないレベルの小さな動きですが、見るべきポイントを示す上では、重要な役割を果たしているのです。

 

人権研修動画内キャプチャ「人権方針の適用範囲」

 

一つ一つのコピーにも、わかりやすい表現が必要です。難解な専門用語をかみ砕くため、細野が作成したのは、言葉の“対照表”でした。

 

細野:固い言葉は避けるべきですが、誤解が生じてはなりません。例えば、「人権方針を遵守する」を「人権を守る」に言い換えれば、守る対象が「人権」か「方針」かが不明になってしまう。この課題を解消するため、サステナビリティ推進室や専門家と相談しながら、言い換え可能なワードのリストを作成しました。リストをベースに、文章、ナレーション原稿、イラストの装飾文字と、それぞれ適切な言葉を選ぶことで、正しさとわかりやすさを両立させています。

 

 

 表現の現場からつくる、人権尊重が広がる社会 

こうして完成した研修動画は、現在グループ各社に展開されている。コンテンツの緻密な設計は、受講者のポジティブな反応につながった。

 

真坂:受講者からは「わかりやすい」「理解が深まった」といった声が上がっており、グループの中では新人研修での利用など、新たなニーズも生まれています。今後も定期的に研修を重ねることで、人権尊重がグループ従業員の“当たり前”になることを期待しています。

 

近年、クライアントからの動画コンテンツの相談が増えているという桐石は、「培ったノウハウを役立てたい」と意気込む。

 

桐石:サステナビリティや経営戦略、IRなど、難しい内容をわかりやすく変換できるのが、動画の最大の強み。特に社内向けの教育・啓蒙施策では、「理解が十分に進まない」「自分ごと化されない」といった課題が顕著です。博報堂プロダクツには、表現技術だけでなく、課題の本質にまで真摯にアプローチする、細野や竹内のようなクリエイターが多数在籍します。企画から制作までワンストップで対応できるクリエイター陣の力で、幅広いニーズに応えられるはずです。

 

博報堂DYグループ従業員への周知を図る真坂さんは、グループ従業員一人ひとりに人権を尊重するマインドが浸透することをモチベーションにしている。

 

真坂:博報堂DYグループの最大の資産は“人”。従業員や取引先、生活者の人権を尊重するということは従業員一人ひとりが全ての人を思いやる気持ちを持つことだと思います。

日々の業務の中で、人権リスクに繋がる可能性がないか?を想像する姿勢が欠かせませんが、そのイマジネーションこそが「生活者発想」を礎にしている我々が得意とするところだと思います。その強みを生かせば、一人ひとりの従業員が全ての人を思いやるグループになれると思います。「人を大切にすることから、すべてが始まる」をモットーに、今後もグループ各社と連携して人権尊重の取り組みを加速させたいと考えています。

 

 

 プロフィール 

博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室
真坂 博 さん
1993年博報堂入社後、営業として総合電機や食品、自動車会社などを担当。2023年に博報堂DYホールディングスのサステナビリティ推進室に着任し、博報堂DYグループのサステナビリティ会議体運営や人権などのG(ガバナンス)領域を中心に担当。

 

博報堂プロダクツ デジタルクリエイティブ事業本部 動画ビジネスプロデューサー
桐石 雄毅
広告制作会社を経て、2015年博報堂プロダクツ入社。営業職、グラフィックなどの制作プロデューサー職を経験し、2024年にデジタルクリエイティブ事業本部に着任。
“動画”とつくすべての制作物のプロデューサー。
(オーダーに応じた、最適な動画や制作物を、最適な人材で、最適なスピード感で、対応力を武器に、“ちょうどいい”プロデュースを心がけています。)

 

博報堂プロダクツ デジタルクリエイティブ事業本部 アートディレクター/モーションデザイナー
竹内 一峰
制作プロダクションを経て、2014年博報堂プロダクツ入社。グラフィックデザイナーによる動画制作「モーションデザイン」を推進中。媒体に拘らない自由な発想で、楽しみながらデザインすることを心がけています。JAGDA会員、TDC会員。

 

博報堂プロダクツ デジタルクリエイティブ事業本部 プランナー/コピーライター
細野 潤一
2014年博報堂プロダクツ入社。プランナー、コピーライター。Webディレクション領域の知見を活かしてコンテンツプランニング・企画・コピーライティングを提供します。
わかりにくいものをわかりやすく表現します。美大卒なので絵も描けます。最近は趣味でAIをよく触ってます。